クラスの催し物が決まったとき、今どきブームも過ぎ去ったのでは……とわたしは思ったのだけど、案外そういうもんでもないらしい。

「ギャー! 杏、超かわいい!」
「あらま〜。まるで秋葉原から出張して来たみたいだな」
「……どういう意味?」

 着替えを済ませると、興奮した様子で七瀬が叫び、その隣では感心したふうにしげしげと森くんがわたしの姿を見た。
 森くんの発言の意味が理解できず、とりあえずジト目を向けると「似合ってるってことだよ」と、おざなりに頭を撫でられる。今日は髪を三つ編みにしてカチューシャもしているんだからやめてほしい。

 今日は東園高校の文化祭だ。
 わたしのクラス――二年一組は、文化祭といえば必ずどこかしらで催されているであろう、メイド・執事喫茶である。しかし定番すぎる内容だからこそなのか、衣装が調達しやすかったらしい。実行委員曰く。
 通常のメイド・執事喫茶と違うところを挙げるならば、くじ引きでメイド衣装か執事衣装を着るかが決まるところだろうか。つまり男子だろうが、くじでメイド役を引いたなら、問答無用でふりふりエプロン衣装に袖を通すことになっている。そんなわけなので、大方準備が整ったクラス内は、けっこう混沌としている。
 ちなみにわたしは、何のひねりもなくメイド役を引き当てた。まあ確率なんて二分の一だし……。

「わたしもそっちがよかったな……」

 七瀬と森くんのピシッとした燕尾服姿を見て、ため息をつく。
 七瀬も森くんも二人して執事役だ。七瀬は長身で美人だし、男装を美しく着こなしている。
 森くんもまあ、ふつうに似合っている(いつもの森のような髪を今日はきちんと撫でつけていて、初見ではちょっと誰かと思った)。メイド役に当たればよかったのに、と思う。つまらん。

「えー、なんで? 杏のメイドさん、すっごい似合ってんのに」
「……あ、ありがと。でもわたし、あんまりこういうふりふりした服って苦手で……余計幼く見えそうだし」
「ああ、たしかに杏、私服パンツのが多いよね」
「もったいね〜。杏ちゃんのロリ力なら秋葉原のメイドカフェで天下とれんぞ」

 森くんに褒められてもちっとも嬉しくないのはなぜだろう。
 そういえば、と七瀬が口を開いた。

「崎くんとこって何やるの?」
「たしか、映画やるって言ってた。崎くん、けっこう重要な役で出るみたいで……」
「マジ? すごいじゃんか。どんな内容?」
「完全オリジナルなんだって。わたしもあんまり詳しくは聞いてないの」

 そうなのだ。崎くんが映画の撮影で忙しくしていて今日までちゃんと会えなかったから、詳しい内容は結局お楽しみ状態なのだった。電話で、「えっとね〜、オリジナルで、なんか青春もの?」というなんとも曖昧な返答をいただいてはいるものの。

「崎クンって演技できんのか? なぁんか、すっげえ大根そうじゃね?」
「……」

 森くんのあんまりな言い様に、しかし心の中で強く肯いてしまうわたしであった。

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