「さ、崎くん」
 
 ん? と空を仰いでいた顔をこちらに向けた崎くんに、わたしはクリスマス仕様にラッピングされた袋を差し出した。

「これ、クリスマスプレゼント……」

 崎くんは、両目をぱちぱち瞬かせながらわたしと袋を交互に見やり、すぐにぱあっと表情を輝かせた。
 開けてもいいかと訊ねられ、もちろん了承する。

「うわ、すげえあったかそう! これ…………腹巻き?」
「……ネックウォーマー。首に巻くの。巻きたいならお腹でもいいけども」
「あー、なるほど」

 納得したふうな顔でさっそくニットのネックウォーマーを首元に装備する崎くん。改めてわたしを見て、にこっと笑う。

「うん、すげえあったかい」
「ほんと? よかった」
「ありがとう杏ちゃん。生涯大事にします」
「いや、ふつうに大事にしてもらえればいいから……」
「じゃあ、俺からも」

 ふいに、どうぞ、と目の前に差しだされた細長い箱。今度はわたしが目をぱちくりさせる番だった。

「クリスマスプレゼントです」
「……開けてもいい?」

 崎くんが頷いたのを見て、丁寧にラッピングの赤いリボンを解き、箱の蓋を開けた。
 中身はネックレスだった。ピンクゴールドのチェーンの先につながれた、デイジーのような可憐な白い花のモチーフが、わたしの眼下でふるえるようにキラリと光る。
 かわいい、と思わず声が漏れた。

「最初はね、ぬいぐるみ買うつもりだったんだ。パンダの。でももしかしたら、パンダグッズは杏ちゃんいっぱいもってるかもしれないって思って」
「……」
「そんな高いもんじゃなくて申し訳ないけど、杏ちゃんのイメージで選んだんで……つけてくれたらうれしいな」
「……」
「……杏ちゃん?」

 崎くんがだんまりのわたしを覗き込んで、ぎょっとする。

「えっ!? ごめん、気に入らなかった!?」
「ち、ちが……」

 にわかに慌てる崎くんに首を振って、涙を拭う。あ、いかん、今日はマスカラつけてるんだった。
 涙腺が壊れてしまったように突然溢れてきた涙に、わたし自身びっくりしていた。崎くんからのプレゼントを期待していなかったと言ったら嘘になるけれど、でも全然泣くつもりなんてなかったのに。

「ちがうの、気に入らないんじゃなくて、う、うれしく、て……」

 そう、うれしかった。今日ずっと、わたしはうれしかったのだ。プレゼントはもちろん、今日ずっと崎くんがいっしょにいてくれて。
 わたしのすきな人がわたしと過ごすことを幸せそうにしてくれる姿に、わたしはなんだか救われたような思いだった。

「うっ。さ、崎ぐん、プレゼントうれじい……だ、大事にするね……」
「あはは……。気に入ってくれてよかった。……杏ちゃん?」

 酔っぱらいの如く泣きじゃくりながらお礼を口にしていたら、急速に意識が朦朧としてきた。
 なんでだろう、体がふらふらする。さっきからひどく悪寒を感じるし、頭のなかに至っては沸騰しているみたいに熱いし……。

「さきくん、ありが、と……」

 ありがとう、と言ったあと、まるで糸が切れたみたいに全身の力が抜けた。
 ぽすんと目の前の崎くんに倒れ込む。

「えっ、杏ちゃ……」
「……さ、さむくてあつい……」
「ちょ、ごめんね。……うわ、すごい熱!」

 わたしの額に手を当てた崎くんの驚いた声を聞いて、自分が発熱しているのだとはじめて気がついた。たしかに今日の体調を思い返してみると、なるほど合点がいく。どうして気づかなかったんだろう。そんでなんで、なんでこんなときに――。
 崎くんが、わたしの分の荷物もまとめて小脇に抱えた。帰っちゃうの、と不安になっていたら、手が脇に差し入れられ、体がふわっと浮き上がった。

「杏ちゃん、ちょっとしばらく我慢してね」

 わたしをまるで赤ん坊のように軽々と抱っこして、崎くんが歩き出す。
 帰るのだろうか。まだいっしょにいたいのに。でも、こうしているとすごくあたたかい。わたしは崎くんの胸元にぎゅっとしがみついた。

 ――崎くん、すき。だから、まだ……。

 何も言っていないけれど、応えるように大きな手がわたしの背をぽんぽんと叩いた。

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