少し街中をぶらぶらしてお昼過ぎに足を運んだプラネタリウムは、さすがクリスマスイブというべきか、なかなかの盛況ぶりを見せていた。
 やはりカップルの多さが目につく。なにせこのプラネタリウムは、二人で寄り添って座れるふかふかシートなるものを推しているのだ。いわゆるカップル席。わたしと崎くんはそれに肩を並べて座って、いま、満天の星空を見上げている。

 ――きれい……。

 場内には歌詞のない幻想的な音楽が流れ、男性ナレーターの耳心地のいい声が星と海の創作ストーリーを歌うように語っている。学びというよりほぼ癒しをテーマにした内容のようだ。
 きれいだ。わたしの頭にはそんな陳腐な感想しか浮かばない。人工といえど、目の前に広がるのはたしかに星の海だった。
 と、そのとき、わたしの右肩に、トサッと重みが降ってきた。

「……」

 さっきから気持ちよさげな寝息が聞こえているのはわかっていた。
 ちら、と横目に見ると、案の定、崎くんが腕を組んだ状態で完全に落ちていた。

「崎くん、手ぽかぽかしてる」
「あー、はは……寝てたから?」
「ふふ、すごい爆睡してたね。いびきはかいてなかったけど」
「いやもう、あのシートがハンパなくふっかふかで……てかごめんね、俺寄りかかって重かったでしょ」
「大丈夫だよ」

 プラネタリウムを出て、近場で早めの夕飯を済ませたあと、わたしたちは手をつなぎつつ再び街中をどこに行くでもなく歩いていた。
 わたしの記憶では、崎くんはプラネタリウム開始十分後ぐらいには寝落ちていた。それをおしえると、だいぶ気まずそうに大きな体が猫背気味になっていたけれど、あの空間がわたしはわりと幸せだった。だからなんとなく、叩き起こしてくれてよかったのに、と言う崎くんのことも結局最後まで起こさずにいたのだった。
 また行こうね、と笑いかけると、やさしい笑顔が返ってくる。
 崎くんは指が絡むつなぎ方に手をつなぎ直し、そのままわたしの手をきゅっとしっかり握った。

「杏ちゃんの手も、今日はあったかいね」
「そう?」
「うん。ぽかぽかしてる」
「なんでだろ、冬はいつも冷え性っぽいんだけど……」

 外は太陽がない代わりに無数の照明の光で満ち満ちて、まぶしいくらいだった。
 しばらく歩くと、大きな公園にたどり着いた。その光景にわたしは思わず目を瞠る。敷地内を取り囲むように植えられた木々が、星屑をまとったようにキラキラと輝いていた。スマホはもちろん、かなり本格的なカメラを使って写真を撮っている見物人がそこかしこにいて、どうやらけっこう有名なイルミネーションスポットのようだ。

「すごい……。プラネタリウムの続きみたいだね」
「俺今度こそちゃんと見ないと」
「ここでは寝ちゃだめだよ」
「は〜い」

 園内のベンチに腰を落ち着けて、わたしたちもイルミネーションを眺めることにした。
 わたしも崎くんも、普段から逐一写真を撮ったりする習慣がないため、この絶景を前に二人そろってスマホも出さない。
 でもせっかくだし、お姉ちゃんに送りたいな。七瀬にも。
 スマホを取り出そうとバッグのなかを探っていた手が、ふと、忍ばせていた例のものに触れる。――そうだ、いま渡してしまおう。

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