▼後日譚

 翌々日、登校すると、わたしの机の上におぼえのない紙袋が置いてあった。
 おそるおそるそれにふれて、中を見る。

「あ……」

 ハンカチにペンケース、リップクリームや絆創膏を入れているパンダのポーチ。それと、ネイビーのカーディガン。手元からなくなった私物たちが、紙袋の中にまるっと収まっていた。
 ハンカチとカーディガンに関しては、洗濯されてきちんとたたまれた状態だった。

「……」

 理解はできなかったけれど、でも根っから分かり合えない人ではなかった気がする。
 たぶん……。



▼おまけ

 その日の午前中、一年五組の教室に意外な人物が顔をみせた。

「崎、呼んでるぞ」

 机に突っ伏して寝ていたところを拓実に叩き起される。
 ん、と拓実が教室の後ろのほうに目をやって、その視線の先を追うと、出入り口のところにすらっと背の高い女子生徒が立っていた。
 あれ、杏ちゃんの友だちの……。

「……七瀬さん?」

 腕を組んでなぜか仁王立ちしている彼女へ近寄り、どうしたんですかと問う。
 ろくに話したこともないし親しいわけでもない七瀬さんがわざわざ俺を訪ねてくるなんて、もしかして杏ちゃんのことだろうか。

「杏のことなんだけど」

 俺の予想は七瀬さんの開口一番で即的中した。

「杏ちゃんがどうかしました?」
「どうもこうもないっつーの! ……って、崎くん聞いてないの?」
「……なにを?」

 聞き返した俺に対して七瀬さんが大仰にため息をつき、言ってないのかよ……と呟いた。
 なんだかやな予感がする。
 そして俺は結局、七瀬さんの口から杏ちゃんの身に起こっている事態をはじめて聞くこととなった。
 結果、軽く眩暈をおぼえた。
 杏ちゃん……なんでそんな重大なことを真っ先に俺に言ってくんなかったの……。
 たしかにここ数日、電話(※夜寝る前の日課)の声とかがちょっとしょんぼりしている印象だった。杏ちゃんは「勉強しててちょっと疲れてたから」と言ってはいたけど、それを鵜呑みにして気づいてあげられなかった俺は馬鹿か。死にたい。
 いやでも、一言ぐらい相談があってもよかったんじゃないかと。いちおう、仮にも、俺は杏ちゃんのカレシなのに。つうか盗んだやつ、カーディガンとか何するつもりだよ。ざけんなよ、そんなん俺だって喉から手が出るほどほしいわ。

「……崎くんも大変だね」

 七瀬さんが苦笑いを浮かべる。

「あの子勉強はできるのに自衛がなってないっつうか、ほんっと危機感薄いからさー」
「あー……森先輩も前にそんなようなこと言ってたっす……」
「ま、今回は犯人ほぼ確定してるからさ。そこで崎くんには、カレシの権限でそいつをシメてやってほしいんだよね」
「エッ?」
「いま森林にそいつのこといろいろと調べてもらってっから。あとからメッセで送らせるんで、そっから先はよろしく頼むわ」
「えーと……頼むっつーのは……」
「杏を守れ。以上」
「……押忍」

 七瀬さん、話が早いな。
 俺に向かって親指を立てる彼女から、若干俺と似たような匂いを感じるのは、……たぶん気のせいだ。



脳筋な二人であった。

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