「日曜、空けといて」
おはようを言うよりも先に、けーたはそう言った。
(Wednesday)9:00 am
その日、いつもと変わらない時間に目覚めたあたしは、ふたりのベッドからするりと抜け出して、キッチンで食パンを二枚焼いた。
トーストに何ジャムをぬるのか訊こうと、また寝室へ戻って、シーツにくるまって眠っているけーたを叩いて起こす。気だるそうな身じろぎで、深いため息を吐くけーた。うっすら開いた薄茶色の瞳はまだ夢を引きずっている。
夢うつつのぼおっとした顔で、けーたが口にした言葉がよくわからなかった。寝ぼけているのかと思う。あたしは、おはようを言うのも忘れて、首を傾げた。
「……日曜日?」
「うん」
「今週の日曜日?」
「うん」
まるで小さい子に訊ねるみたいに確認する。けーたは相変わらず頭がまだ半分も起きていないようで、寝言のような相づちを打つ。
今週の日曜日、と考える。あたしの予定なんてバイトぐらいしかないけど、今週の日曜日はシフトが入っていなかった。空けとかなくても空いている。
「日曜日、なにかあるの?」
「……」
「ねえ、けーたってば」
怒っているような、でもそうじゃないような、むずかしい目があたしを一瞥した。
「……どっか行こうかと、思ってるんだけど」
こっちを見ないでそう答えた声は少しかすれていたけれど、もう夢を引きずってはいなかった。
「……どっか行こうかと思ってるの?」
「……うん」
「そうなの」
「……そう」
どこに行くの?と訊ねたあたしの声は、ちょっと、そわそわしていたかもしれない。
けーたの言葉の真意もまだよくわからないのに、気持ちが勝手にどきどきしていた。
「どこ行きたいの」
あたしは、きょとんと目をまるめてしまった。逆に訊かれるなんて思ってもみなかったのだ。けーたの行きたいところに行くのだと思った。
そうなの。あたしの行きたいところに行くの。どうしよう。あたしの行きたいところ、行きたいところ……。
どきどきしながら、そわそわと考える。それで頭に浮かんだのは、まだ一度も行ったことのない、TVのCMなんかで目にする度に行ってみたいなと思っていた場所。
「けーたけーた、あたしね、ねずみの国に行ってみたい」
「……却下」
「却下!?じゃ、じゃあ、ねずみの海でもいいよ」
「却下。ねずみ以外にして」
「ガーン!じゃあなんで訊いたの!?けーたのばかやろう!」
二枚のトーストはあたしが食べてやろうと思った。苺のジャムを全部使って、牛乳もパックからがぶ飲みしてやる。ちくしょう、けーたのばか。
今週の日曜日の予定は、宙ぶらりんなまま。