※猫パラレル
※子猫の海未ちゃんと飼い主慧太くんの話で、『子猫のうみ』のその後です
※作中では海未ちゃんの名前はひらがなで「うみ」となっています
あたしはけーたの猫。名前は「うみ」。
目が「うみ」みたいに青いからだと、けーたは言っていた。
けーたはあたしのことを子猫だとゆうけれど、あたしは意外といろんなことを知っている。
たとえば、あたしは夢のなかで「うみ」を見たことがある。あれはとてもきれいなものだった。まんまるの黄色い月とおなじくらい。
あたしは、まるで「まま」みたいなやさしいまなざしで頭を撫でられるたびに、そのことをけーたにおしえてあげたかった。
でも、いいのだ。けーたは、あたしの言うことはあんまりわからないみたいだから。
あたしは猫で、けーたはけーただから。
けーたは、しょうがないね。
家出をしている。もう丸一日帰っていない。
けんかをしたわけじゃない。猫にはそうゆうこともある。
とはいえ、そんなに遠くへはゆけなかった。ほかの猫とか車とか、けーた以外の人とかがまだちょっとこわいので、家出をしよう、と思ったはいいけど、結局アパートの近くの木陰でずっとひとりで遊んでいたのだった。
「……帰ろう」
意外とあたしが遠くまでゆけないことに内心ちぇっ、と思いながら、しょうがないので家へ帰ることにした。
でも、きっともう少ししたら、もっと遠くまでゆける。そのときはきっと狩りもじょうずにできるはずなので、けーたにおみやげをもって帰れるようになる。
「けーた、ただいま」
丸一日ぶりに、けーたとあたしの部屋に帰ってきた。
窓から降り立った部屋のなかは、外とおなじくらい暗く、シンとしている。けーたはいないようだった。
ある定位置に目をやると、水とごはんのうつわがちゃんとあった。ほんとうは水じゃなくて牛乳がのみたくてしかたがなかったのだけど、あれは朝の飲みものだ。朝になれば、けーたが帰ってくる。けーたが帰ってきたら言おう。
「……」
今しがたあたしが入ってきた窓からは月の光が差し込んでいて、それがあたしを照らしている。
「……?」
あたしはそのとき、自分のからだがおかしいことに気がついた。
おもむろに自分の手のひらを見る。まるい肉球が、どこにもない。それどころか、あたしの手のひらは、なんだかまるで人みたいな手のかたちをしている。その手のひらで顔をぺたぺたとさわってみる。
……ちがう。猫じゃない。
慌ててお風呂場へゆき、そこにある大きな鏡で、あたしはあたしを見た。
そこにうつるあたしには、肉球だけではなく、三角の耳も長いしっぽも、どこにもなかった。
「あれ?」
あたしは、「おんなのこ」だった。