※猫パラレル
※子猫の海未ちゃんと飼い主慧太くんの話です
※作中では海未ちゃんの名前はひらがなで「うみ」となっています























 けーたはあたしを「うみ」と呼ぶ。
 目が「うみ」みたいに青いからだと言っていた。
 あたしは「うみ」を知らないけれど、けーたに呼ばれる「うみ」は、きらいじゃない。




 あたしはけーたの猫。毎朝決まった時間に起きる。
 けーたはあたしよりも朝がおそい。だからあたしがけーたを起こしてやらなきゃだめなのだ。

「けーた」

 朝だよ、と眠るけーたの顔をぺろっとなめる。でもこれだけで今までけーたが起きてくれたためしがない。今朝もそうだ。けーたはしょうがないね。けーた、そんなにずっと寝てたら、猫になるよ。

「けーた、起きなきゃだめだよ。朝だよ」
「……」
「けーたけーた、あたし、牛乳がのみたいよ」
「……」

 耳元のところで訴えても、けーたは微妙に眉を寄せて唸るだけで、なかなか起きてくれない。あたしはむっとする。
 けーたはしょうがないね。猫ぱんちするしかないね。
 そう思い、あたしが肉球をぎゅっとしたとき、ふいに頭の上に大きな手がのびてきた。

「……うみ」

 けーたはあたしを「うみ」と呼ぶ。寝起きの声はかすれてる。
 うみ、と呼んで、あたしの頭をなでて、けーたの茶色の目がうすく開く。
 けーた、やっとあたしを見たね。あたしはもう一度、けーたの顔をぺろっとなめる。

「うみ、くすぐったい」
「けーた、おはよ」
「ほんと規則正しいなおまえ……。うみ、猫ってふつう夜行性なんだからな」
「やこうせい」
「うみの牛乳、まだあったよな……」
「けーた、やこうせいってなに?」

 あたしは訊くけど、けーたは答えてくれない。気だるげにかぶっていた毛布をのけて、ベッドから出る。
 けーたは、いつもあたしの話をあんまり聞かない。あたしはけーたの言うことは、ぜんぶじゃないけど、ちゃんとわかってる。でも、けーたはそうじゃない。けーたはあたしの言うことをあんまりわからないらしい。
 けーたは、しょうがないね。

「うみ、おいで」

 けーたがあたしを呼ぶので、あたしはけーたのあとをついてゆく。



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