8月30日。秋の影も見当たらない空の下、この暑いのに、子どものはしゃぎ声がそこかしこから飛び交っている。
 開園前から並んでようやく入場ゲートを潜ると、いよいよ海未の目がキラキラと輝きを増す。そこらへんではしゃいでる子どもよか、よっぽど。

「あわわわわ」
「……おまえ今からそんなんだと後でぶっ倒れるぞ」
「う、うん。ねえねえけーた、どれから乗るの?絶叫系?それともメルヘン系?ハアハア」
「どれでもいいから落ち着け」

 前々から海未が行きたがっていたテーマパークに来ている。一泊二日の泊まりで。
 バイトもわざわざ休みにしてホテルも三ヶ月前から予約して、今日確実に来れるように(密かに)時前準備していたのは、一応それなりの理由があるからで。
 海未にはまだ改めて言葉を伝えていないにしろ、当の本人は今までずっと興奮さめやらぬ状態だし、気づいているのかどうか微妙。

「海未、あのさ」
「ハッ!けーた大変だよ!せっかくテーマパークに来てるのに、あたしたちなんの装備もしてないよ!」
「は?なに装備って、ドラクエか」
「そうだよこれは壮大な旅でもあるんだよ!まずは武器屋へ行くよ、けーた!」

 いや人の話聞けよ。
 しかし腕を引っ張られながら、今の海未にはムードの欠片もないし、ちゃんと言うのは一通りアトラクションに乗って海未が満足したらでいいかと、一人思案した。

 武器屋とか意味不明なことを言ってまず連れてこられた場所は、パーク内のグッズショップだった。陳列棚には隙間なくテーマパーク公式キャラクターのぬいぐるみや菓子やストラップなどが並んでいる。
 どう見ても土産物屋だし、ここは最初に来る場所じゃねえだろと思いつつ海未を見れば、既にその手に何か掴んでいる。
 猫耳のついたカチューシャだった。パステルピンクの毛色の猫耳に、青い水玉模様のリボンがついている。

「おまえそれつけて回んの?」
「うん」
「いいけど、そんなんここ出たら絶対必要ねえだろ」
「むっ。そんなことないよ、使うよ」
「いつだよ」
「はろうぃんなど」

 言いながら、買う気満々な様子で値札がついたままのカチューシャを装備する海未。

「…………」
「けーた?どうしたの?」
「……べつに。ほら、買うなら買ってこいよ。時間もったいない」
「ありがと、すぐ買ってくるね」

 とりあえず二千円を渡してレジへ向かわせた。しかし戻ってきた海未の手には、海未が頭につけているのとはまた別の猫耳カチューシャが。
 おいなんで猫耳増えてんだよ。

「はい、こっちはけーたの装備品だよ」
「……いや待って、意味わからん」

 至極当然な顔で、海未のものと色違いのパステルブルーの猫耳カチューシャを差し出されて、困惑する。

「だってけーた、さっき二千円くれたじゃん。これ一つ千円なので、ちゃんとけーたのも買ってきたんだよ」
「頼んでねーよアホ。これ返品してこい。そんで千円返せ」
「なぜなの?まさかけーた、なんの装備せずにパークを回るつもりなの?そうなの?」
「装備なしでも死なねえよ、頭固いから」
「ギニャアアアいくらけーたが融通きかない頭でっかちでもこれつけなきゃ始まらないよ!ていうか買っちゃったんだからもう返品不可だよ!後生だからおとなしくつけてよ!」
「ざけんな絶対嫌だわそんなん!つーか誰が融通きかない頭でっかちだばか……」
「…………」
「…………」

 上目遣いに睨まれ、言葉に詰まった。
 その涙目やめてほしい。あと猫耳ずるい。猫耳はずるい。

「……今日だけだからな」

 後生だから、パーク内に知り合いいませんように。



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