ここだ。明らかにここが原因だ。
 どこまでいっても眩しい晴天が続く海への道の途中、ハンドルを握りながらどうしてこうなったのかを考えていた。

「秋吉あとでコロス……」
「聞こえてんだけど!なに不穏なこと呟いてんの!?」
「ていうか何で俺が運転してんだよ。海行こうって言い出したの秋吉だろ」
「いや慧太がジャンケン選抜で選ばれたからじゃん。ねー、海未ちゃん」
「けーた運転できたんだね。すごいね。知らなかったよ」
「…まあ、いちおう」
「運転手さーん、照れてないでちゃんと運転してくださーい!」
「おまえ次の信号で降りろ。うまいこと轢いてやるから」
「ちょっ」
「あ、そうだ。あたしお菓子係だからお菓子持ってきたんだった。みんなじゃがりことピュレグミどっちがいい?」
「俺じゃがりこ〜」
「ピュレグミ」
「……」

 横目で無反応な助手席を見やる。俺のとは形の違うサングラスをかけて、腕を組んでシートにもたれた唯太。
 サングラスのせいで瞼の状態は窺いにくいが、さっきから全く動かないし、意識を向ければ聞こえてくる微かな寝息。

「唯太寝てる」
「あー、唯太朝までバイトだったもんね」
「俺もバイトだったけど」
「そういえば、この車は唯太くんがバイト先の店長さんから借りてきてくれたんだよね。じゃがりことピュレグミをお供えしておこう」
「俺も一緒に頼んだけど」

 なんか理不尽な気がしてならない。

 またもや赤信号にさしかかった。ブレーキを踏んで停車させると、後ろから海未が身を乗り出してきた。

「けーた、はいどーぞ」

 差し出されたのは、ハートの形をしたレモン色のグミ。
 ハンドル握ってるからしょうがない。
 誰に言い訳をするでもなくそんな理由を頭に浮かべて黙って口を開けると、コロンと舌の上に転がった。

「運転、がんばってね」

 俺の耳元でそっと囁いて、後部座席へ戻っていった。
 …まあ、こういう機会でもないと運転しないし、たまにはいいか。
 口の中でレモン味を転がしながら考える。
 そろそろ青信号になりそうなところで、入れ替わるように今度は秋吉が身を乗り出してきた。妙にいい笑顔で。

「…なに笑ってんだよ」
「運転手さん、楽しみっすね?海未ちゃんの水着〜」

 信号が青になった。
 強くアクセルを踏むと、急発進した勢いで秋吉が後部座席のほうへ倒れた。

「っぶないなー!安全運転でお願いします!」
「気が散るから秋吉黙れ」
「海未ちゃあん!慧太がいじめる!」
「秋吉くんハバネロ食べる?」
「食べる食べる〜!」
「海、もうすぐかな。そうかな。楽しみだね」
「ね〜」

 ちらりとルームミラーに映る姿を盗み見る。ノースリーブの白いワンピースを着た海未は、いつもどおりに見えて、朝からずっとどことなく落ち着かない。ずいぶん楽しみらしい。泳げないくせに。
 水着も今日のためにわざわざ買ったのだと、昨日言ってたっけ。
 水着……。
 あーだめだ、気が散る。

 カーステレオから流れていた『over drive』が終わると、視界の先に海が見えた。



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