side:Umi
車で一時間ちょっとなのに、遠い場所まで来たみたいだった。
みんなで泳げる海にきた。見渡す限りどこもかしこも人がいっぱいで、砂浜はカラフルなパラソルだらけで、繋がっているはずなのにアパートの近くの海とはまるで違う海に思える。
更衣所を出て、広がる景色をまじまじと眺めてから、あたしは思い出したように自分の姿を見下ろした。
変じゃないかな。
今日のために、あたしははじめて自分で水着を買った。購入するとき一人では心もとなかったので、アルバイト仲間の嘉穂ちゃんについてきてもらって、二人でいっしょに選んだのだ。
ミントブルーが涼しげなビキニ。無地だけど、胸元にはささやかなフリルがある。
しかしビキニというやつは、とてもスースーする。でも今日は猛暑だし、周りはビキニの女の子だらけだし、こんなもんだと思うことにしよう。うんうん。
けーた、なんて言うかな。
「うわ〜!海未ちゃんめっちゃかわいい!いいっすね!夏だね!」
「うんいいね、似合ってます」
「…………」
先にパラソルを借りて準備してくれていたみんなのところへ向かうと、まず秋吉くんに笑顔で迎えられて、それから唯太くんにうんうんと頷かれて、それから、無言である。
グレーのハーフ丈の水着姿のけーたは、あたしを一瞥して、すぐに目をそむけた。サングラスをかけているけれど、レンズの色はそれほど濃くないし、そんな目の動きはすぐにわかった。
なんとなく面白くない。あたしはけーたに近づいて、腕をツンツンする。
「けーた、けーた」
「……」
「けーたってば。なんで無視するの?あたしが遅かったからおこなの?そうなの?」
「海未ちゃん海未ちゃん、慧太アレだから。照れてるだけだか…イタッ!殴るときだけ無駄に反応速い!」
「慧太、思ってても言わなきゃ伝わらないよ」
「……おまえらちょっと黙れ…」
ドスのきいた声で言ったあと、けーたがやっとあたしを見た。
「おまえ、パーカーかなんか着ろ」
きょとんとする。これから泳ぐのに、なぜなの。
あたしは首を横にふる。
「持ってきてない」
「いや持ってこいっつったろ俺昨日」
「朝から暑かったし、置いてきた」
「……」
「ギニャッ」
デコピンを食らった。なぜなの。