部屋に入るなりダブルベッドにはしゃいでいた海未は、今はすっかりおとなしかった。シーツの中でちいさくまるくなって、俺の傍らにくっついている。
 安心しきったような寝顔を見下ろしながら、血色のいい頬を指先でなでた。すると、閉じたまぶたや肩がぴくりと反応する。海未、と呼ぶと、まぶたを閉じたまま、うんと頷く。
 なんだ、てっきり寝てるのかと思った。

「海未」
「…うん」
「俺風呂いくけど」
「…うん」
「おまえは?」
「はいる…」

 うとうととした声で答える。目をこすりながら、海未が上半身を起こした。
 ほんの少し前まで指先や舌でふれていた、白い肌のふくらんだところやへこんだところをぼんやりと眺めた。
 猫みたいなのに、服を脱がしてしまえば女の体をしている。

「……いっしょに入る?」

 なんとなく、聞いてみた。海未がまだ眠そうな猫の目で俺を見る。そして、なんとなく、という感じでうんと頷いた。


 アパートの部屋のよりかは多少広い浴室。まるい浴槽にお湯をためながら、そういえば、こういうとこの風呂でお湯ためるのははじめてだな、と思う。毎回シャワーで済ませてたし。
 八分目ぐらいのところでお湯を止めた。

「けーた」

 部屋にいる海未を呼びにいこうとしたら、浴室のドアが開いた。海未がひょいと顔を出す。

「お湯たまった?」
「ん。こんぐらいでいいだろ」
「うん。ねえけーた、これ入れてもいい?お風呂場に置いてあった」

 差し出されたのは、バラの絵が描かれたピンク色の袋。入浴剤だった。

「いいけど、これ、あわあわになるやつだぞ」
「あわあわ?」
「バブルバスな」
「ばぶるばす」

 はじめて聞いたとでもいうように、きょとんとする海未。

「おまえ入ったことないの?」
「…な、ない。けーたけーた、これ、これ入れたらお風呂あわあわになるの?そうなの?」
「…そうだよ。一応ジェットバスだし、入れたらあわあわになるよ」
「あわわわ」
「狼狽えすぎだろ。入れるなら入れろって」
「う、うん」

 俺が促せば、海未はかなり恐る恐るという手つきで袋を開け、緊張した顔で袋の中身をお湯へ入れた。
 まるで動物園で大型動物に餌でもやるような姿だった。噛まれるわけでもあるまいし。



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