友達の慧太くんは、女の子にモテる。出会ったときからそうだった。
 女の子関係の噂は、それが良くも悪くも慧太くんには絶えることはなかったし、実際言い寄られている場面なんて何度も見ていた。


(extra)5years ago



「慧太ってさ、誰かとちゃんと付き合うとかないよね」

 幼なじみの秋吉くんが言う。ため息混じりの呆れた声を、パックのカルピスを飲みながら隣で聞いていた。

「ないね」
「だからヤリチンとか言われんだよっつっても本人知らん顔なんだもん。唯太も何か言ってやってよ」
「うーん、でも実際ヤリチンだからなあ」
「あ、うん、そうなんだけどね……。つーか、慧太って好きな子いないのかな〜。いっぱい告白とかされてるじゃん」
「慧太に好きな子ってなんかシュールだな」
「シュールて」

 笑う秋吉くんの背後で、オレンジ色のボールがこちらへ向かって飛んでくるのが見えた。使いすぎて表面がなめらかになってしまったバスケットボール。片手を伸ばして、受け止めた。

「唯太」

 愛想のない顔で俺の名前を呼ぶ。
慧太くんが、少し離れた場所、古びたゴールの下に立っている。

「1on1やろ」

 ちょうど飲み終えて空になったパックをゴミ箱へ放る。ボールをドリブルさせながらのろのろと近づいていけば、走れよバカ、とかなんとか苛ついた声で言われる。仕方がないので小走りで行く。

「慧太」

 ボールを投げた。

「好きな子とかいないの?」
「……何の話してんの?」

 怪訝そうに眉をひそめるが、それだけだった。うん、まあそうだろうとは思った。
 慧太くんはいつもクールだ。女の子から言い寄られるときも、あまり穏やかじゃない噂がこれみよがしに聞こえても。
 でも、放課後、裏庭でバスケをするときは、いつもよりちょっとだけ楽しそうに見える。

「好きな子できたらおしえてね」
「さっきから何言ってんだし。てか唯太これ負けたらアイス奢って」
「えー、俺今日30円しかないから、俺負けたら秋吉が奢るね」
「ちょっとおおお!」

 慧太くんがちょっとだけ笑った。それを横目にしながら、いつか好きな子ができたらもっと笑ったりするのかなあ、ああでもやっぱりうまく想像できないなあ、などとぼんやり考える。
 本人には、言わないでおく。



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