映画館を出たら外はもう夜だ。それでも人は減らない。街は明るい。
19:00 pm
ずっと暗い中で大画面の映像を見ていたから、頭が少しぼおっとする。映画を観る直前に買ってもらったパンフレットをショルダーバッグに仕舞って、歩き出す。
隣を見上げると、あたし以上にぼおっとしているけーたがいる。その顔に思わず変な笑いが出そうになる。
「けーた」
「……」
「けーた、ちょっと泣いた?」
「……泣いてねーし」
「むふふ」
「変な笑いやめろ」
三回まわってニャーだよ、と言ったら、けーたは黙りこくってしまった。だめだよ、取り消しは無効だよ。けーた、「いいよ」って言ったもんね。むふふ。
「けーた、映画おもしろかったね」
「……ソウダネ」
「むふふ」
「……」
三回まわってニャー、いつやってもらおうかな。
あたしの考えていることを察しているらしいけーたからは、ふてくされたような空気が伝わってくる。
明かりが消えない夜の街をしばらく何も話さないままに歩いた。あたしは空を見上げた。小さな三日月と、星が少し。ああ、もう夜なんだ。改めてそう思ったら、少しだけさみしくなった。今日は、いつもよりずっとずっと一日が速いのだ。いつもよりけーたとたくさん話した気がする。いつもより、ずっと手があったかくて、それが今さら胸の奥のほうを苦しくさせる。わからない。帰る場所はいっしょなのに、どうしてこんな気持ちになるのだろう。
「飯どうする?」
交差点で、信号待ちをしているときに訊かれた。
「あんまりお腹すいてない」
「おまえ映画館でポップコーン食いすぎだから」
「けーただって、ちょいちょいつまんでたじゃん」
「9割おまえが食っただろ」
「キャラメルおいしかったね」
映画館で食べたキャラメル味のポップコーンは、熱いうちに口に入れたから、今も舌の上が少しヒリヒリしている。けーたに言ったら、笑うかな。
「けーたはお腹すいた?」
「べつに、ふつう」
「そっか」
「……帰るか?」
「……」
信号が青になった。あたしたちは一斉に動き出す人波の一つになって、横断歩道を渡った。
「けーた」
つないだ手を、たしかめるように握った。
「あたし、海にいきたい」
今日がもう少しだけゆっくり進んだらいいと思った。
終わらなければいいなんて、そんなことは言わないから、だから、もう少しだけ。