「どっか見たいとこある?」
14:00 pm
映画館の近くでお昼を済ませた後、街をぶらぶら歩きながら訊かれた。
訊かれたけれど、はじめて来た場所だし、見たいところと言われても、もう何処に何があるのか全然わからない。
「けーたが見たいとこでいいよ」
「俺はべつに見たいとこないし」
「けーたってなんでいつも盛り下がることゆうの?」
「うるせーよ。ほら、見たいとこ言って。10秒以内」
「なんで!?」
「109876543……」
「速いよ!えっとえっと……あ」
「なに、見たいとこあった?」
「うん」
ピアスが見たい。そう答えると、けーたは目をまるくして少し驚いたような顔をした。
「ピアス?おまえ開いてないじゃん」
「うん、いいの」
「ふうん……まあいいけど」
けーたはどこか釈然としないふうな声で言う。それでも特に何か訊かれることはなく、あたしの手を引いてまた歩き出した。
連れられてきたお店は、何だか意外だった。白い外観の小さなセレクトショップ。人の多い歩道から少し外れた路地にあるので、なんだか隠れ家みたいだ。
中は、こじんまりとしているけれど、棚や木のテーブルには雑貨やアクセサリーがいっぱいに並んでいる。かわいい。思わず隣のけーたをじっと見上げてしまう。
「なに?」
「こういうかわいいお店も知ってるんだなって思って」
「……こういうの好き?」
「うん」
頷くと、そう、とそっけない返事をして、あたしの髪をくしゃっとする。よくわからなくて首を傾げるあたしをよそに、けーたはもう店内をぶらぶらとまわり始めている。後を追うように、あたしも自由に見てまわることにする。
ピアスはテーブルの上にたくさん飾ってあった。最初、お店の雰囲気で女の子ものしか置いてないのかと思ったけれど、見れば意外と男の人がつけそうなシンプルなものも多い。
こういうのを「ゆにせっくす」というのだな。ピアスを一つ手のひらにのせて、もっともらしく思う。
これ、けーたがつけそう。ブラックで、華奢で、リングっぽい形のピアス。値札を見てみる。ハッ、けっこう高い……。とりあえずそのピアスを戻した。
「……あ、」
ふと、目に留まったピアスを、また手のひらにのせた。
「かわいい」
白猫の顔のモチーフがついた小さなピアスだった。猫の両目は、サファイアのようなブルーのキラキラした石になっていて、とてもきれいだ。
いいな。かわいいな。これつけたいな。ピアス開いてないけど。値札を見てみる。ハッ、高い……。
「なに見てんの」
ピアスの値段に気をとられていたら、けーたが後ろからひょいと覗き込んできた。あたしの手のひらの上のピアスを見て、何故か小さく笑う。
「なんで笑うの?」
「や、ぽいなって思って……。気に入ったの?それ」
「うん……」
「なんだよ」
「かわいいけど、これはいいの」
名残惜しく思いながらも、猫のピアスを戻した。すると、けーたが怪訝そうにしているのがわかったので、慌てて場所を移動する。棚に置いてあるマグカップを見ているふりをした。
ピアスが見たいと連れてきてもらったけれど、結局ピアスは買わなかった。今使っているのがひび割れているからと言って、マグカップを一つ買った。