87:鬼事騙し





指示された時刻は午前四時、現在の時刻は午後九時だ。まだまだ余裕がある。しばらく退屈しそうだからせっかくなので化燈籠を歩いて捜索することにした。
チェイサーも探していることだ、効率よく探せるだろう。ライトは虫豸の格好の的になってしまうので夜目を利かせて警戒しながら探さなければならない。この広大な森林を火も点さず鎮座しているとなると、やはり見つけるのに苦労しそうだ。まあ、気長に探すとしよう。
いざとなったら危険を承知でチェイサーを上空に飛ばせて、セイバーを使う。そうして安全地帯に逃げ延びれば、いくらでも反撃の機会を狙える。私にしか使えない手段だ。

小賢しいのは、始まったときからだ。





午前零時を回った頃のことだった。私がうっかり化燈籠を見つけてしまったのは。

口の端から「ええー」と文句を漏らしながら、沈黙する悪魔を眺める。まさか見つけてしまうとは。午前四時までは花火を点火できないし、それまでは試験を終わらせるわけにもいかない。だからといってこれを見逃すと私の合格率が下がってしまう。試験に合格することが最優先事項であるのだから。

午前四時までここで待機するとして、どうやって暇を潰そうか。そうだ、チェイサーの映像を確認しよう。付近の様子も警戒しなければならないし、と脳内に暗闇を映し出す。
暗視用に切り替えると、……狐二体と神木さんの背が映った。もっと上空に飛ぶよう指示する。その進行方向は、この化燈籠の現在地だった。白狐を先行させて化燈籠を探索している。慌ててチェイサーを呼び戻した。

困ったなあ、これを渡すわけにはいかないし……少し様子を窺おうと化燈籠の上へとよじ登り、クリアーに包まった。程なくして白狐は化燈籠を発見し立ち止まる。神木さんも虫豸を追い払いつつ現れた。


「はあ、見つけたわ……この様子ならあたしが一番ね」
<そうとも限りませんよ>
「誰かいるの?」
<ふむ、これは今なお付近で見ているな>
<感じますねえ、他人の気配>
「誰よ!姿を現しなさい!」


なんて優秀な使い魔なんだろうか。神木さんは辺りを見渡して警戒している。このまま隠れ続けていたら多少は時間を稼げるのだろうか。あと二時間は無駄に働いてもらうとしよう。

「(チェイサー、少し離れた茂みを揺らして。そして神木さんと追いかけっこをして。捕まるまで、ずっと。捕まりそうになったら戻っておいで、最終的にはここがゴールだから)」

羽根を曲げて、チェイサーはすぐに飛び立つ。今回のチェイサーは追われるほうだ。派手に揺れた草むらに神木さんは威嚇して駆け出した。

さて、先に運んでおくわけにもいかないから、やっぱりここで待機かあ。


クリアーを取り去り、ごろりと寝返りを打ったところで、目が合った。


「何しに来たの」
「まひるがつつがなく働いてくれているかどうか確かめに来たんですよ」


アマイモンは私の腹の上で飴を勢いよく噛み砕いた。




mae ato
modoru