88:助言忠言






拳で殴りかかればひらりと避けられ、そのまま近くの枝へと逃げおおせた。無駄な接触は避けるのではなかったのか、自分から近づいてどうするんだ。
チェイサーの映像を一瞬だけ映し出して、まだ遠くのほうで鬼ごっこをしていることを確認する。その後でダガーを構えてアマイモンに向き直った。

「花火も奪ったし、後は指定時刻に火を点けるだけだ。何も問題はない。……きちんと働いている」
「ええ、ずっと見ていましたよ」
「兄上といっしょに?」

ハイ、と肯定され、思わず空を見上げる。澄み渡るように星が見えた。しかし、お目当てのピンクは見えなかった。

きっとクリアーたちのことも見られている。それは分かっていたが、思いのほか動揺は少なかった。手の内を隠しても仕方がない。隠し続けることが私にとって損ならば、いっそ明示してしまえばいい。

私は、私のこの力が何なのか、知りたい。私が何者なのか知りたい。異世界の人間だから、イレギュラーだからという理由ばかりに頼ることは、もう疲れたんだ。自分で模索するにも限界がある。だったら、利用されながら利用してやる。

最大のとっておきは、オブリビオンは、まだ隠しているから心配はいらない。大丈夫だ、焦っていない、落ち着いている……。

「ほかの塾生たちはまだ運び終えていないの?指定時刻はそれも鑑みているのだろうけれど」
「中々手間取っているようです、まだ誰も到着していません」

その言葉にほっと胸を撫で下ろす。さすがにこの広大な森林を捜索から運搬までこなすのは骨が折れるか。ましてやひとりで運ぶのであれば……ひとりで?この化燈籠を、はたしてひとりで運べるのだろうか。特性を利用したとしても、ひとりでは容易ではない。三枠しか与えられないとして、外れた者はいつ実戦任務の資格を得るのだろう?補修でも行うのか?タイミングをずらして実戦に出すことに何のメリットがある?同じ任務内容ではないとしても、時期を同時にしない理由はどこにある?


…………三枠、か。


「もしかして、どこかはみんなで協力して運んでいる、とか」


返答は、端的な首肯だった。

なんだ、そういうことか。枠は三つだけれど、人数制限について言及はない。別に単独であろうが集団であろうが、運べば資格は取得できる。厄介な言い回しをされたものだ。

「そうか、それならずいぶん楽に試験を終えられそうだ」
「まひるはそれ以外にも為すべきことがありますよ」
「わかっているよ。花火を点ければ、それで終わりでしょ」
「ええ、それだけです」


アマイモンは再び念を押した。


「それ以外はしないでください」


それが癪で、だから私は、


「善処するよ」


と、曖昧に返答した。


じっと見据えるアマイモンに、さっさと帰れと手を振る。虫豸に二言、三言指示を出してから、ようやく消えた。
なんだったんだろう、ほんとうに。現状を知ることができたのは上々だけれど、なんだか怪しい。


まあ、あんまり気にしても仕方ないか。手元の時計を見やる。午前二時四十五分。あと一時間と十五分。





mae ato
modoru