85:天気良好


林間合宿当日。私の憂鬱は最骨頂に達していた。今思えば事前にメフィストさんに相談したほうがよかったかな、いやメフィストさんを当てにするのはちょっと考えものだし、でも独断とアマイモンの勝手で行動するのはよくない事態を招く予感しかしないし、……ああもう集合場所に着いちゃった、これはもう諦めるしかないのか。

「やだなあ……」
「俺も嫌やわあ、森ン中とか最悪やん」
「志摩くん、……虫がいるから?」
「そ、ようわかったな、志摩が虫苦手やって」
「いや、なんとなく……虫かあ」
「杉さんは虫は平気ですか?」
「平気じゃない」

ああ、想像しただけでぞっとする。……今のうちに虫豸についてもっと調べておこう。





キャンプ地の設営と夕食が終わってすっかり日の暮れた頃から、試験の説明は始まった。
私はあらかじめその試験の概要を知っている。アマイモンから聞かされた。森林の各所に配置された化燈籠の捜索と回収、説明では「提灯」とごまかされていた。三日間の猶予が与えられるが、きっとこの試験は一日で終了するだろう。予定にないものの参加がすでに決定している。そして、私はそれの企ての片棒を担ぐのだ。


「荷物の中に悪魔避けの花火とマッチがあります。まひるはある塾生からそれを奪取し、指定の場所で点火してください。ボクからの要求はそれだけです。さらに言うならば、それ以外のことは何もしないでください。ボクに余計に接触したくないでしょう」


塾生から花火を回収するのは自分のものの使用を避けるためと、引率の教員の注意を引くためだ。花火はギブアップの意思表示であり、救出のサインである。悪魔に襲われている可能性を示すので、教員はそこに必ず向かわなければならない。その隙を狙って奥村燐に接触するという算段だろう。
私のやるべきことは分かるが、アマイモンが何をするか私は知らない。訊いてみると「まひるのアドバイスを利用しようと思っています」とか、理解に苦しむ回答が寄越された。今回はメフィストさんの指示に従うようだけど、悪魔を信用するべきではないだろう。

何はともあれ、私は私の仕事をそれぞれこなすだけだ。ホルダーのダガーナイフと懐に忍ばせた召喚紙を今一度確認する。ふっと陰った視界に私は顔を上げた。彼女は両手を握り締めてにっこりと微笑む。

「杉さん、がんばろうね!」
「……三枠しかないなら、敵になっちゃうかもしれないね」
「あっ、そ、そっかあ……じゃあ、負けないよ!」
「うん、私も、……頑張るね」

またね、と手を振るその背は危機感の欠けた健気なものだ。私は杜山さんの向かった方角をしっかりと見つめた。





(2017/03/06 改編)


mae ato
modoru