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「断る人とかいるの?上の方がいいのに」


「SとかAあたりは頭良いのにプラスしてマジの坊ちゃんだったりするから、やりにくいやつはやりにくいんだろ。結構いるよそういうやつ」


「へえ、そうなんだ……」


想像してみたらプライドの高い嫌味なやつが思い浮かんで、なるほどと納得する。知らないけど。おれらみたいなやつが上のクラスにいくのはまあ無理だけど、SとかAくらいになるとそういう選択もできたりするらしい。


おれらと同じクラスにもいるって言うなら、テスト勉強はそういう人たちに頼るべきか。わざわざ先生に聞きに行ったりとかしたくないけどでも数学まじでやばいし赤点は避けたいから。

でも話したことすらない人にいきなり勉強教えてとか言うのもなんか…こんなときだけって思うよな。おれだったら思う、と思う。


「ふたりさ、せっかく部活休みでわざわざおれの部屋来たのにこれじゃ意味なかったね。ごめん」


きっとおれら3人だけじゃ他の教科やるにしてもこんな調子だろう。勉強すると言って集まったのにこれじゃ今日は進みそうにない。せっかくの部活のない放課後、ふたりには微妙な時間を使わせてしまったと思いそう言ったら。


「このやろー!!」


「うわっ!?」


それを聞いて、おれ目掛けて飛び込んでくる直江。


「なあっ、初めてじゃん!放課後一緒なの!勉強なんかさ〜できなくてもいいじゃんかあ」


どーん!と飛び込んできた直江を支えることもできず横に座る陽介に凭れるように倒れたおれは、直江と陽介に挟まれた状態で、あ、となる。


「勉強ってのはさっき決めただけで、星野といるってのが今日のもともとの予定だから」


「そう!ちょー予定通り!」


予定どおり……。


「そっ、か…。ごめん。」


そうふたりが言ってくれたことになんだかむずむずして、とりあえず謝った。ごめんって言ってごめん、というか。


いつも放課後ふたりは部活があって、教室でまた明日って言って別れて。直江が言ったように放課後一緒にいるのは初めてのことだったから。いつもはいないところにおれが割り込んじゃったというか、いつもとはちがう例外のおれというか。

どこかでそんな風に考えて勝手に申し訳なさ感じていたおれだったけど、ふたりの中には普通にいたのかもしれない。おれ。


「なんでごめん」


「そこごめんじゃなくね?」


「え、あ。……す、すき」


「いやちが……、くはないかもだけどさぁ……」


なにそれおれのありがとう待ち?って思ったら素直にありがとうと言うのが少し照れくさくなっちゃって。代わりに好きって言ったらおれを後ろから支えている陽介がううん…、と唸った。


「いいじゃん。ありがとうってことっしょ?」


「うん」


「ならありがとうって言え」


「いだだだっ」


後ろから伸びてきた陽介の手に頬を摘まれ、そのまま容赦なくぐいーっと引っ張られる。


「あ、ぶす」


おいこらてめえ。


おれに半身のし掛かって伸ばされたおれの顔見てそんなこと言った直江には、げしっと足で蹴りを入れてやった。いてえ!と言った直江はごろりと転がっておれの上から退く。


「どれ、見せて」


「い…っ、」


自分が動けばいいのに、陽介はおれの顔を動かそうと摘んだ頬を引っ張るからすごく痛い。


「うはっ、ぶす」


なんておれの顔見て笑った陽介の手を振り払い、このやろうと飛びかかったおれだったが陽介にはあっさりとよけられてしまった。


「くそ、おまえら人のことぶすぶす言いやがって…」


「大丈夫、普通にしてたら普通だって」


うるせえ。

復活したのかごろごろと転がっていた直江は起き上がりながら微妙なフォローを入れてくる。が、嬉しくもない上に逆に馬鹿にしてんのかって思えて今度はおれが寝転んだ状態でげしげしと直江を軽く蹴る。


そんなおれをよそに、どうする?数学やめて他のやってみる?なんて話し始めるふたり。


「あ!陽介さあ、古典の現代語訳わかる?おれあそこ寝ちゃってたんだよね」


「俺教科書そんまま書き込んだわ」


「おっ、さんきゅー!」


教科書取り出して直江に渡す陽介と、写メるわ〜って言ってそれをばしゃばしゃスマホで取り始めた直江。


くそ。おまえら。

あとでおれにも写メらせろよ…って思っていたら、こんこんっと突然ノックされたドアにそれまでの動作をぴたっと止めて一斉にそっちを見るおれたち。


あ。帰ってきた。

起き上がってドアを開ければそこには嶋が立っていて、おれを見てから嶋はちらりとおれの後ろに目線をやった。座っている直江と陽介に向かってにこっと笑った嶋は、その顔のままおれに視線を戻す。


「ごめんね。今帰ってきたから、人来てるなら一応まいも挨拶しておこうかなあって思って」


「あ、ああ、うん。…ごめん、言ってなくて」


普段ふたりだけのときには向けられたことのない笑顔で見上げられ、いつも話している嶋とは別人すぎて変な感じ…と少し戸惑いつつも先に声をかけられなかったことを謝った。


「いいよー。えっと、直江くんと小柴くんだよね」


広げられた教科書を見てか、勉強してたの?と質問した嶋におれも部屋を振り返る。嶋の質問には、おーって陽介が片手上げて答えた。


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