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「おじゃまします!!」
「は、はい…」
初めて部屋に人を招いた。
でっかい声でおじゃましますと言った直江は、今日の放課後ここに来るって決まったときからうるさくてうるさくて。
直江と陽介を玄関に通したあと、引き気味でドアを閉めるおれ。靴を脱ぎながら陽介が直江の肩を叩く。
「声でけえよ」
「いや〜、まいちゃんの部屋来たんだと思ったらなんか緊張しちゃって」
いや、嶋の部屋でもあるけどお前はおれの部屋来たんだろ。
「てかまだ嶋帰って来てないし。しばらく帰ってこないと思うけど」
いいから奥行って、と立ち止まるふたりの背中を押して共有スペースへと進む。
今日は放課後の部活が休みらしく、3人で集まろうという話になった昼休み。どこで何するって考えた結果、テストも近いこともあって勉強だろってやることはすぐに決まった。
場所は誰の部屋でもよかったんだけど直江の強い希望によりおれの部屋に即決。陽介も、直江の部屋はよく行くし星野の部屋見てみたいって言うから、来ても面白いものなんてないけどまあおれも自分の部屋の方が落ち着くしと思って二つ返事で了承した。
「おれの部屋こっち」
「じゃああっちがまいちゃんの部屋…」
おい入んなよ。
おれが自室のドアを開けた状態で待ってやってんのに、直江はきょろきょろと共有スペースを見渡して入ろうとしない。
「嶋には言ってあんの?俺ら来ること」
そんな直江の様子をおれの横に立って見ていた陽介に問われ、ううん、とおれは首を横に振る。
さっき嶋にはここに来る前にひとこと声をかけようかと思ったんだけど、なんか話してたし教室で話したことってまだないから話しかけにくくて。実はまだ連絡先も交換していないから帰ってきたら言えばいっかって思っている。
おれの部屋でこもってやる分には問題ないだろう。ここでやらない?なんて直江は共有スペースのテーブルを指して言うから、だめって言って部屋に押し込んだ。おれが怒られる。
「何もないな」
「言ったじゃん、来ても何もないよって」
思えば、煙草没収されててよかったかも。収納もあんまりなくてきっと隠しきれなかっただろうから。
これ置くからそこ座ってて、と折りたたみ式のテーブルを引っ張り出しカチッカチッとその脚をたてていく。もともと備え付けで置いてあったんだけど邪魔だからたたんで立て掛けていたやつ。使わないだろって思ってたけど、あってよかった。
「何やる?」
3人でテーブルを囲んで座ったところで陽介がそう言ったから、何でもいいんなら、とごそごそと鞄をあさり取り出した数学のテキスト。
暗記科目ならひとりでもできるし、せっかく3人でやるなら数学とか教えてもらいながらできるやつがいい。テスト勉強とかまだ何も手をつけていないから、まずは自分で解くところからなんだけど。
「じゃあ解いててわかんないとこあったら質問するってことで」
「ん。」
と言ってちっちゃいテーブルにテキストを広げる。狭いからと陽介もおれのやつを一緒に見ることにして、テスト範囲だという最初のページから解き始めた。
「………」
一問解いて解答見て、あってたら次の問題ってやっていって。基本問題はできたんだけど応用編になると急に難しくなって、数問解いたところで手を止め解答を見てみるが。
…どっから出てきたこの式。
「ねえよーすけ、これわかる?」
答えまで見てもさっぱりわからなくて、すぐ横の陽介を肘でちょいちょいとつついて手元のノートを覗き込んだ。
「どれ、…って俺そこまでいってないし。こっからもうわかんないんだけど」
「あ、おれそれできたよ」
おれより手前でつまずいていた陽介には、テキストの解答片手に慣れない解説をしてあげた。自分で解けてもそれを人に教えるのって難しい。なんとか理解したようなしていないような陽介は次の問題を解き始めたが、おれの方はまだわからないままで陽介が無理なら直江に、と声をかける。
「ねー、直江。ここ教えてほしいんだけど、」
「俺にわかると思うのかね!」
「え」
できた?って聞く前に食い気味で返されてしまった。
思うのかねって……。
「お…、おもわないかも……」
そうだ。こいつおれと同じくらいの頭じゃん。といつも隣で授業を受けている直江の様子を思い出して首を横に振る。
「だろー?わかるわけないじゃん」
「なんでそんな偉そうなの…。てか、え、だめじゃん。みんなわかんないじゃん」
直江のノートを見てみたら陽介と同じところをやっていて、おれが一番進んでいると言っても二、三問程度でもうわからなくなっている。
え、誰が教えてくれんの?
「星野もわかんないの?」
「俺らみたいな持ち上がりより、外部から受験して入ってきた星野の方ができると思うんだけど」
うそ、まじ。
「できないよおれ」
たしかに受験勉強はしたし合格して今ここにいるけど…。あのときは手ごたえなさすぎて落ちたと思ったし実際受かったのだってほんとギリギリだったんじゃないかと思う。
「まあクラス一緒だしなあ。言ってもそんな変わんないんかな」
クラスと聞いて思い出す。ほぼ同じくらいの学力でクラス分けがされていることをすっかり忘れていた。
「え、じゃあわからないことあっても同じクラスの人にきくんじゃだめってこと…」
「Cにもいるよ頭良いやつ。本当は上のクラスだけど断って下にいんの」
俺らのクラスだと誰だっけ、なんて直江と陽介は話し始めて、あいつじゃね?っておれの知らない名前を挙げていく。その人たちがおれらと同じCクラスの中だと頭が良いらしい。
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