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でもおれは煙草が吸いたくて煙草持ってる先輩には会いたい。っていうかまあ会わないと貰えないし。何て送るか確かに迷いはしたけど別にああ言ったのだって間違いではない。そもそも先輩がこういう感じだからおれだって色々疑い深くなってああいう言い方になっちゃうってわかってんのか。


「ふんんん、んん」


「ふ、なに。わかんないよ」


先輩の手の下でもごもごしてたら手を離してくれた。


おれたち今隠れてるし向こうにいる人たちに聞こえないようにと、おれもおれより高い位置にある先輩の耳元に少しだけかかとを浮かせて口を近付ける。少し後ろに体重がかかっても先輩が支えてくれた。

ずっと押さえられていた口がじわじわ熱い。


「…しのづか先輩は会いたくなかったですか」


先輩から言い出したことだけど、後からやっぱりおれの禁煙に付き合うのが面倒になったりしてるかもしれない、という考えがよぎって聞いてみたら


「……。」


ふぅ、と息を吐いた先輩はあんなにおれが対抗しても離れなかった腕をすんなり離すと茂みから出て行ってしまう。

え、何してんの見つかっちゃうじゃんと思ってホールの角からそろりと顔をのぞかせたらそこにはもう先輩以外に人はいなかった。


「あいつら少し前にどっか行ったよ」


「え、」


先輩のせいで気が付かなかったけど、あの人たちは煙草を見つけてからすぐに去って行ったらしい。
じゃあその時教えてくれればいいのに。と心の中で文句をたれつつ再びベンチに腰掛けた先輩の横におれも座った。


足元を見るとさっき落とした煙草が転がっている。


「あ。……し、篠塚先輩。さっきの落としちゃったしもういっぽんとか…」


「駄目」


ええ…。結構我慢してあんな中途半端な一本だけでおわりとか…

まじか、と項垂れながら足元に落ちた煙草を拾い自分で持っていた携帯灰皿に押し入れる。


「今日はこれだけ。次はまた吸いたくなった時な」


「え…」


さっきのおれの質問、答えてもらってなかったからやっぱ面倒になったのかなって思ってた。いいんですかって聞くおれに篠塚先輩は、ふっと笑みをこぼす。


「星野のくせに遠慮してんの」


くせにって。おれだって遠慮くらいする。


「ただ場所は考えないとなあ。ここにまで人が来る事滅多にないと思ってたんだが」


「そうですね…」


「新入生が入ってきたばかりだし、高等部の校舎がまだ珍しいんだろうな。」


そのせいでおれもだいぶ疲れることになってしまったし、さっきも先輩は探索しにきた一年だろうって言ってたけど探索とかしてないで早く寮帰れよ。まったく。

とか入学早々にここに来て煙草ふかしてたおれが言えることでもないんだけど。


「まあ場所はまた考えておくから」


また今日みたいにここに人が来る可能性は十分ある。
どうやらもうここでこうして会うのはやめておくっぽい。他にいいとこあるのかなって考えてもおれにはわからないし、考えておくって言った篠塚先輩に任せることにする。


「星野、そろそろ戻る?」


「ん…ああ、はい」


いつも放課後は嶋より先に部屋に帰っているし、帰るのが遅れるとまたあの厄介なまいの勘とやらを働かせてしまうかもしれない。

まだ平気だと思うけど篠塚先輩の言葉に早めに帰ろ、と腰を上げようとしたらベンチに深く腰掛けたままの先輩に声をかけられた。


「悪いんだけど、俺時間置いて戻るから」


「へ?」


…ああ、そっか。

先輩風紀だしこんなことしてるってバレたら大変だもんな。それに、また前みたいに一緒に校内歩いて注目浴びる先輩の横歩く羽目になるかもしれないのはおれも居た堪れないし。たしかにそれがいい、と納得する。


おれが待ちますよ。と先輩が先に戻るように言ったら
いいよって笑って断られた。


「それより星野、さっきなんか遠慮してたけどさ。もし俺に次からは無しって断られてたらどうするつもりだったんだよ」


「んー…先輩から貰うのは諦めてもう煙草送ってもらおうと、……あ」


「……お前次覚えてろよ」



じゃあせんぱいおれ失礼しますね!と挨拶もそこそこに帰路についた。


今逃げてもまた次会ったときどやされるんだろうなあ、と思いながらポケットから取り出したディフューザーを自分に向けてプッシュする。

少しずつ吹き始めた夕方の風にミスト状のそれをちょっと飛ばされつつ、やっぱり煙草のあとに付けるくらいが甘くなり過ぎなくて丁度いい。


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