21


おれの腕ごと抱きしめる先輩の腕を外そうと力んでみるが、


「ふん…っ」


「あ、こら黙れって」


「んぐ、っ」


うるさい、と余計にきつくからだも口も押さえ込まれてしまうことになった。おれのあほ。


「珍しいな。こっちまで人が来るなんて」


そう呟く先輩。どうやらベンチの所まで人が来たようだ。姿は見えないけどその声がすぐそこからする。

煙草落として来ちゃったけど大丈夫かな。


少し首をひねってすぐ側にある先輩の顔を見上げる。


「ん?どうした?」


「ふ、んん、……ん゛ん゛」


……いや喋れないし。

とジト目で訴えるおれに先輩は楽しそうに目を細める。


向こうでは、なんかここたばこ臭くね?って言ってるのが聞こえる。おれが落とした煙草を見つけたらしく、あ、たばこ!と別の声が続けざまに言うからおれは先輩の腕の中で身をこわばらせた。


どうしよう。火ちゃんと消してないしまだ煙たいあの状況じゃさっきまでそこで煙草を吸ってたのがばればれだ。あの人たちがこっちまで来て、おれだけじゃなくて先輩も見つかるのはまずい。先輩にとんでもない迷惑をかけることになる。


困って目尻を下げるおれに気付いたのか、先輩はおれの耳元に口を寄せた。


「…大丈夫。こっちまでは来ないよ。風紀とかでもないし多分お前と同じ一年かな。ちょっと探索にでも来たんだろ」


「ん、」


先輩に大丈夫と言われたらそうかと思えて小さく頷いた。おれの耳元でそう言った先輩は離れるかと思ったら尚もおれの耳をその声でくすぐる。


「それより、今見つかると煙草云々よりも俺が星野襲ってると思われてまずいかもなあ」


「……ン?」


なんて?

と思い今の自分の状況を振り返って考えてみると、まあ確かに何してんだって思うような状況ではあるけど…。
さっきも誘拐される時みたいとか一瞬自分でも考えてたけどでもそんな、まさか襲われてるとか……え、思う?


「どうする?」


どうするとは。


襲う襲われるっていうのはカツアゲ的な意味合いなのか、…それともこの前先輩に説明された意味でか。
煙草のことだってあるし、どちらにせよもし見つかったらまずい状況なのは変わらない。見つからないことがいちばんいいけど見つかるにしてもこの体勢のままはダメだ。

と、さっきは外せなかった先輩の腕からおれはまた逃げることを試みる。


「ふん…っ」


「…ん?ああ、離れる?」


篠塚先輩が離せばいいと思いますけどね!

悠長に言う先輩に苛ついて腕とか腹筋に力を込めても、ぎゅうっと抱きしめてくる先輩の力にかなう気がしない。


「どうした、この前は本気じゃなかったから退かせなかったんだろ?」


「ん゛〜っ」


くっそ。この前おれの部屋でおれが言ったこと覚えてて今言うとか…っ


「…ふ、力んでるから顔あっつくなってきた」


踏ん張ってるせいで血が上って顔が熱くなってるのが自分でわかるが、おれの顔を掴んでるからその熱は先輩の手にも伝わってて。


「ああそういえば、俺じゃなかったら本気で抵抗するって星野は言ってたけどさ」


たぶんそれと一緒におれがわりと全力なのも伝わってるはずなのに。

先輩は元からすごく近かったのにさらにおれの耳に触れるくらいまで唇をぐっと近付けた。


「俺にも本気、出した方が良いと思うけど」


「っ、ん゛〜…!」


もう本気だわ!と内心言い返すが、前回自分の筋力買いかぶって余裕こいてたおれが言えることでもない。たぶんこれおれが蒔いた種。

耳元でクスクス笑いながら囁かれてそのくすぐったさに体から一瞬力が抜けたが、その後も続くその感覚に今度は先輩の腕の中で体を強張らせる。


「俺がこの前星野に言ったこと、ちゃんと覚えてる?」


「っん、ん!」


耳から吹き込まれるぞわぞわした感覚に、すくめた首で小さくコクコクと頷く。顔を背けようとしたら口元を押さえる手にグッと押さえ込まれてしまってかなわなかった。


「ふうん。じゃあ星野は俺に会いたかったから連絡くれたの?」


え、何いきなりと思ってよくわかんないけどその質問にもそのまま頷いておく。くすぐったいから早く終わってほしいとかじゃない。


「煙草が吸いたかったんでなく?」


おれまた何か先輩に怒られることしたかなってぐるぐる考えてたけど、先輩の言いたいことが前のことを含め何となくわかった。


どうもおれの連絡の仕方が気に入らなかったらしい。


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