20




自分では気付かなかったけどおれってばそわそわしていたらしい。陽介にこのあと何かあんの?ってきかれて気付いた。ううんって言うおれに疑いの目を向けてきた陽介だけど、部活始まるいそげー!と言った直江が連れて行ってくれて助かった。

今日もサッカー部は大変そうだ。


本当は予定があるんだけど。これから風紀委員長に煙草をもらいに行くんだなんて言えないし。煙草吸うことも篠塚先輩のことも、まだふたりには話してない。

言いにくいとか言ったときの反応が怖いとかいうより、言うとめんどくさそうだなって。うんごめん。



約束どおりホール裏に来たらまだ先輩は来ていなかったから、ベンチに座って待つことにする。相変わらずこっちの方にはひと気はなかった。


地面に敷き詰められた小石を足で踏んでジャリジャリと音を立ててたら、違うところからも同じ音が聴こえてきて足を止めた。


「あ、せんぱい」


振り向けば地面の小石を踏み鳴らしながらこっちに歩いてくる篠塚先輩。おれの座るベンチまで来ると隣に腰を下ろした。


「悪い。待たせたな」


「終わってすぐ来ただけなんで。先輩は風紀とか行ってたんですか?」


「今日は昼に行ったから大丈夫。今はこれ取りに行ってた」


隣に座った先輩がブレザーの内ポケットから何か取り出したと思ったら煙草とライターだった。先輩が来るまで少し時間があいたのは、一度寮の部屋まで取りに戻ってからここに来てくれたかららしい。


「わ、ごめんなさい。戻ってくれたんですか」


「さすがに俺も持ち歩く訳にはいかないからな、いいよ別に。それよりお前授業は真面目に受けろよ。」


先輩がそう言うのは、おれが授業中に連絡してしまったからだろう。

受けてたけどわからなかったんだから仕方ない。しかもあれは直江のせいであっておれちゃんと休み時間に送ろうと思ってたのに。

と注意されたことに少しふてくされながらも、急なおれの連絡にわざわざ煙草を取りに戻ってくれた先輩の言葉には素直に頷いて返事をする。


「ん。」


ぽんと渡されたライターに、箱から一本取り出した煙草も手渡されるかと思ったら口元に差し出されて。


「…え、」


「ん?」


咥えろってこと?

おずおずと先輩の手元にある煙草に顔を寄せてぱくっと咥えてみたらそれでよかったらしい。うん、と言って微笑まれた。

これじゃほんとに篠塚先輩に吸わせてもらってるって感じだな。


篠塚先輩に与えられた煙草にライターで火をつけるとまっすぐ上に煙が立ちのぼった。外だけど風が吹いていなくて、この狭い空間にも煙がこもっていく。

数日ぶりの煙草。煙草を吸い始めてから、その本数は少なかったけどこんなに時間をあけて吸うことってなかったかもしれない。久しぶりに吸い込む煙に少し頭がクラっとした。


「…匂い付いちゃいますよ」


先輩に煙がいかないようにと吐き出すけど、近くにいるだけで結構匂いって移る。もう少し離れた方がいいんじゃ、と思って言ったけどそれも別にいいらしい。それよりなんかおれのこと見てる。


「うまい?」


「え、あ、まあ。」


久しぶりに吸った方が煙草っておいしいのかもしれない。いつも特別おいしいと思って吸ってなかったけど。それよりも落ち着くからとかの方が煙草を吸う理由としては大きい。

先輩から聞いてきたくせに、ふうん、と興味なさげな返事。


「でも結構我慢できたな。もっと早く音を上げて連絡してくるかと思ってた」


「先輩に連絡しにくかったんですよ…」


普通に吸いたかったしずっと先輩に何て連絡するか考えてた。吸わないからってイライラまではしないけどなんかぼーっとするというか、集中力がもたないというか。今日の計算ミスもそのせいだきっと。

と、おれよりできてなかった直江に馬鹿にされた数学の授業を思い出して、また一口煙を吸い込んだ。


「いいじゃん禁煙になって」


と笑う先輩に、まあ確かに…と煙草を吸わなかったこの数日を思い返しながら煙を吐き出す。


「でも篠塚先輩、ほんとに吸わせてくれるんですね。罠だったらどうしようって考えてました」


連絡しにくかったのもそう思ってたからであって、本当に吸わせてくれるとわかれば先輩に連絡するのを戸惑う必要もない。これからは普通に吸いたいときに連絡できそうだし、禁煙に効果があったのは今回だけだったかな。


「失礼だな」


「そんなこと言ったって、せんぱい、」


風紀委員長だし。

と、言おうとしたら突然横からのびてきた先輩の手に口を塞がれた。


「待った。」


「んぐっ」


びっくりして指に挟んでいた煙草を地面に落としてしまう。いきなりなんだ?


「しー」


「ンンンっ?」


喋るなと言われて黙ると、微かに人の話し声が聞こえてきた。

……こっちに近付いてきてる?


「んー…こっちに来そうだな。ちょっと隠れるか」


「んん…っ!?」


口を塞ぐ手もそのままに立たされて、ぐいっとホール裏に来た方とは逆側に押しやられる。いきなり自分じゃない力に動かされてびっくりしつつ、漫画とかで誘拐されるときこんな感じだよなって呑気な頭で思った。あの口に布当てられるやつ。


ホールと茂みの僅かな隙間。というかほぼ茂み。

ホールの角が死角になっておれたちの座っていたベンチもこっちからだと見えない。もしあの声の人たちが来てもここに隠れるおれたちには気付かないと思う。


「ん゛ん、」


「うん?」


狭いところに隠れてるから仕方ないけど手は離してほしい。と後ろから抱きしめるようにしておれの口を塞いだままの先輩の腕の中で、身をよじって声を上げるがその手は離れない。

うん?って言う声が少し楽しそうで、あ、先輩おもしろがってるなっていうのがわかった。


[ 21/149 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]

[back to top]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -