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***


「うーん……」


このページの応用問題を解けと言われて10分が与えられた数学の授業中。2問目でわからなくなった。結構みんなできていないのかやっていないのか、教室はざわざわとしている。先生が解説をしてくれるまであと5分。
問題を解くことを諦めたおれの手はペンではなく机の下でスマホを握ってる。


先週末ひとつ増えた連絡先。メッセージ画面を開いてメッセージを送ろうと思ってもなかなか送ることができずにもう週の半ば。そろそろきつい。

連絡くれれば吸わせるって言ってたけど、なんて送ればいい?
と、悩んでいたらだいぶ煙草も我慢することになってしまった。

おれから篠塚先輩に連絡する時点でその内容なんて言わなくても分かりきってる訳だし直球でもなんでもいいんだと思う反面、相手は風紀委員長だし本当に連絡して実は罠だったらどうしようとも思ってしまって。


ばかだなって笑いながら反省文渡してきそうだもんあの人。でも一緒に禁煙頑張ろうって言ってたし信じていいのか?去り際だってまたなって……あ、いや、またのこのこ現れたら捕まえるぞってこと…?


「うーん、わからん……」


今日こそは送ろうと思っているからまた後で悩まないようにと朝からずっと考えてる。

意味もなく『しのづかせんぱい』と打ち込んでみたところで左の席のやつに話しかけられた。


「わかんないのー?」


「ん?あーうん、わかんないわかんない」


直江がきいてきたのは数学の問題のことだろう。直江できた?ときいたら、できないと返してきた。できないんかい。


「でも星野くんスマホいじっちゃダメじゃーん」


「わ、こっちくんな」


ずりずりと椅子ごとこちらに寄ってくる直江に咄嗟にスマホの画面を背けたら。指が当たって入力してあったやつを送信してしまった。


「あ、」


やば、送っちゃった。後で休み時間か昼に送ろうと思ってたのに。

直江め、と睨むが先生の解説が始まってそいつは前を向く。

おれが送ったメッセージだけがぽつんと表示された画面に目を落とす。まあこれに返信きたら考えればいっか、と思って画面を閉じようと思ったらメッセージの横にぱっと既読の文字がついた。


え、はや。


『授業中』

と、思った以上に早い先輩からの返信。


先輩も授業中にスマホいじったりするんだ。おれから送っといて何だけど。

前で解説してる先生にバレないようにと警戒しつつ、ごめんなさいと返信をした。


『どうかした?』


と言われて手が止まる。

結局なんて送るかはっきり決まらないまま送ったうえに返信もすごく早かったからいざそう訊かれると困ってしまって、既読をつけた状態でしばらく考えた。


『せんぱい今日会いたいです』

『でた』


なにがだ。


『いいよ、放課後ホール裏な』


煙草が吸いたいとかは言ってないけど、ホール裏ってことはたぶん先輩もわかって言ってくれてるんだと思う。案外すんなり済んだやりとりに、もっとはやく送ってればよかったとも思ったけど無事約束を取り付けられて一安心だ。


パッと顔を上げて前の黒板を見たら問1の解説が終わってた。唯一解けた問題。だと思ったのに答えがちがくて途中式とか一緒じゃん、と手元のノートと見比べたら計算ミスが発覚した。

先輩には『わかりました』と返信をしてから、スマホから持ち替えた赤ペンでおれはノートに正しい答えを書き込んだ。


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