旦那 | ナノ



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首を傾げて何か話忘れたことがあっただろうかと、思考を巡らせる。
そんな私の様子に苦笑をこぼした紳先輩が肩に置いていた手を頭に移した。
よしよしとなでられるその頭についぽかんと口を開く。

「紳先輩?」
「中央席で、応援頼むぞ」
「もちろんです!」

にっこり、笑ってから、呼んでるぞ、と背後を示されるのでそちらを見る。
高頭先生と橘くんが手招きしていた。
紳先輩に頭を下げてからベンチに移動していた二人の方へと向かう。

「どうしました?」

声をかければ、彼についてだが、とその視線は公式データのないその青年に向けられていた。

「牧たちにはなんと説明したんだ?」
「オフェンス重視の桜木くんの1年後、と」
「…初心者に近いのか?」
「以前の練習試合を見た感じでは、ディフェンスは穴とも言えるくらいでした」

ですから、注意するべきはそのオフェンスだと。
そう告げれば、高頭先生はわかった、と重々しく頷いた。
扇子をパチパチと弾くようにしながら、その表情は厳しいものである。
すぐに、審判の笛と、三分前!という声が響き渡った。
どきり、どきりと跳ねるような心音に、私が緊張してどうする、と口元を歪ませる。
魚住さんと紳先輩のラスト!の指示の声が響いた。
もう中央席に戻っておいた方がいいだろう、と橘くんが持ってきてくれたノートの入ったカバンを受け取る。
湘北、武里、陵南、それから海南のノートやら、いろいろ入っているそれは重くないが軽くもない。
ノート類とスコア表を持って、中央席に向かう。
が、事実上の決勝戦とも言えるからだろうか、人が多い。
座れる場所を探すために視線を走らせれば、相田さんがひらりと手を振ってくれる。
彼女の隣の席を示してくれるその手に頭を下げて近寄る。

「ありがとうございます!」
「いいのよ、それで…今日はなんで下にいるの?いつも上よね?」
「はい。今日は専業マネ…私と橘くんの仕事と他の推薦マネのみんなの仕事を交換してるんです」
「なるほど」
「あの…相田さん?彼女は…?」

そういうこともするのね、と納得している様子の相田さんの向こう側から後輩さんが不思議そうにこちらを除き込む。
そういえば、彼は挨拶もしていないから知らないのか。
ちらり、と横目で時間を確認すれば、あと1分半はある。
スコアをめくって準備をして、体勢を整えてから、そちらにニコリと笑顔を向けた。

「初めまして。私、海南大付属の男子バスケ部マネージャーの白雲氷雨と申します」

よろしくお願いいたします、と頭を下げれば、ぽかん、とした顔が目に入る。
首を傾げてその顔を見ていると、相田さんが後輩さんを小突いた。
それにハッとしたような後輩さんが口を開こうとした瞬間、ホイッスルと共に選手たちが整列を始める。
表情を引き締めて、まっすぐに彼らへと視線を移す。
一度深呼吸をしながら、気持ちを落ち着かせるために目を閉じる。
中心に整列した彼らの声が響き、すぐに目を開く。
ジャンプボールのために動く彼らを見ながら、ぎゅうとペンを持つ手に力を込めた。

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