旦那 | ナノ



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正面に立って聞けば、突然、抱きしめられる。
突然のことに体が固まり、身動きが取れなくなった。
耳元でそっと囁かれる。

「頼みがあるんだ。」
「なんです?」
「家に、来てくれないか。」

思わず、首を傾げた。
家に来てくれって何?どういうこと?
状況が把握できず、混乱することしか出来ない。

「説明してもらっていいですか?」

私の言葉に頷いて距離をとってくれる。
それから、何ともいえない表情で、眉を寄せて、視線を彷徨わせた。
で、結局どういうことかといえば、

「跡継ぎの近くにいる聞いたことない女の子に興味があるってことですか。」
「簡単に言えば。」

こくり、一度頷いた紳先輩に苦笑して、大丈夫ですよ、と笑う。
たしかに、これは品定めと言ってしまえばそれまでだが、そういったものだろう。
だが、これは私が招いたことでもあるし、初めてじゃない。
既に彰くんのお母様にも試されているし、ご実家にも呼ばれた。
宗くんのご両親にも会っている。
それに試されるのは私が曖昧な返事で彼を振り回しているからだろう。
私がきっぱりと断っていれば、これは起こりえなかったことだ。

「大丈夫ですよ。」
「だが、」
「大丈夫です、そんなに心配しないでください。」

これが原因で紳先輩と近づきがたくなる訳でもないのだから。
笑いかければ、安心したような何ともいえない笑顔が返ってくる。

「そんなに緊張したんですか?」
「…俺から、こういうのをいうのは、初めてだったからな。」
「今までは向こうが勝手に、ってことですか?」

さ、降りましょう、と片手を差し出せば、軽く握られて。
頷いた紳先輩は、苦笑しながら肩をすくめた。

「家に来てほしいとも、デートしてほしいとも言ったことはないんだがな。」
「…いや、それは彼氏としてどうなんですか。」

思わず素直に口にすれば驚いたような表情をされる。
…え、変なことは言ってないよね?
デートしてほしいは、言ってもらいたいよね?
なんて、混乱していれば、彼は苦笑して、肩をすくめた。

「デートよりバスケがしたかったんだ。」
「…ああ、まぁ、分からなくはないです。」

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