胸うさ | ナノ



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「……キッチンをお借りします。」

視線を思いっきり彷徨わせてから、席を立つ。
逃げる気じゃないだろうな、と視線が語ってるように感じるのは、私の気のせいだろうか。
思わず口角を引きつらせてしまうが、まあ、分からないでもない。
ピアス…は無理だし、と口元に手を当てて考える。
上着を一枚脱いだ。

「これマッチさんがくれた上着なので、汚したくないんです。」

持っててくれますか?小松さん、と続ければ意図を理解したのかこくり頷く彼。
よろしくお願いしますねー、と告げてキッチンへ向かう。
ふと気がついてトリコさんに食材お借りしても?と首を傾げる。
何とも言えない表情を浮かべていた彼はああ、と大きく頷いた。
ビターチョコレートケーキでも作って持っていこう。
あそこにあったの無駄に甘そうなものばっかりだったし。
もしくはしょっぱい系かなぁ?
なんて考えながら、手を動かせば、あっという間に出来上がってしまった。
チョコレートケーキは今オーブンで焼いているし、その前にタルト生地が焼き上がったし。
それから、大きな入れ物でゼリーも作ってみた。
タルトは純粋にフルーツタルトにしよう、と思ってカスタードも作ってみた。
甘さ控えめな生クリームにしよう、砂糖は極力控えめで、上のフルーツが甘いんだからいいよね。
チョコレートケーキは冷まさないといけないんだっけ?
うわぁ…待つのも微妙だし、冷める系の歌?冷える系の歌?恋愛系?
冷める、冷やす…涼しい部屋…てことは、ホラー系もいける。

「焼き上がったかなー?」

首を傾げながら、オーブンをじーっと見つめた。
もう少しかかりそうなので、タルトの生地の上にカスタードとクリームをのせて。
焼き上がったチョコレートケーキとついでにゼリーを冷ますためのホラーを歌いながら、フルーツを可愛らしく切る。
それを綺麗に飾り付けて、完成した三品に満足。
どうやらケーキもいい感じに冷えたようなので、粉砂糖を振って、一気に運ぶ。
皆さんのところへ行った瞬間、視線が集まった。

「…な、んでしょうか?」
「さっきから美味しそうな匂いがしてるからだしー!!」

一気に近寄ってきたリンさんに苦笑する。
全体的に甘さ控えめですよ、と告げて、ふと思い立つ。
その場に皿を並べて、自分の薙刀を取り出した。
ゼリーだけ自分の分も含めて切り分ける。
生クリーム1つつかなかった薙刀を折り畳んで、もう一度皿を持ち上げた。

「どうぞ、ただ、ゼリーは私基準なので、かなり低カロリーですが。」

並べれば、いただきます、と声が聞こえ、楽しそうに食べてくれる。
その様子が嬉しくて、ゼリーを一口掬った。
ぱくり、と食べて、モゴモゴと口を動かしていれば、真剣な目を向けられる。

「なんでしょうか?」
「君は…何故食事を摂らないでいられるのかな?」

にこり、微笑んだココさんが首を傾げた。
じっと私を見ている瞳は、私を通して何かを見ているようで。
少し考えて、笑った。

「多分、私が人間じゃないからじゃないでしょうか?」
「氷雨!」
「いいんですよトリコさん、それが事実ですから。」

怒ったように声を荒げたトリコさんに笑う。
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