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暫く経って降りてきた彼は腕に彼女を抱いていた。
慣れたように首に手を回す氷雨に、安定した支え方をするマッチ。
これだけでもかなりイラとしたのに、マッチはそっと、彼女を立たせて腰に手を回す。
彼女も違和感を感じない程そうされていることが多いのか、何の反応もない。
そのままの体勢で、内緒話をするように小さな声で会話を始める。
ひそひそ、と鼻がくっつきそうな程の近さで。
俺の位置から見れば、もしかしたらキスしてるようにも見える。
マッチが笑ったと思えば、もう一度、彼女を抱き上げた。
そのまま俺の横を通り過ぎるものだから声がよく聞こえてくる。
「…し寝る、膝がしびれたら起こせよ。」
「ちょ、それ、膝枕決定じゃないですか!」
ぷく、と頬を膨らませながらも、それ程いやがっている様子は見えない。
そのまま二人は角のあたりに向かう。
氷雨を置いて、マッチはテントに向かい、一枚の毛布を持って帰ってくる。
彼女は待ってろと言われた場所から動くこともなく、静かに座っていた。
向い合うように立たせて、マッチは座り込む。
腕を引かれ膝をついた氷雨を抱き込み、楽しそうに笑う。
それから、彼女の肩に頭を預けるようにして、眠りについた。
此処で見ているだけじゃ何も変わんねぇよな。
氷雨はマッチを見ていて、俺の方はちらとも見ない。
ゆっくり近づく。
「氷雨、」
「はい?…トリコさん、どうかしたんですか?」
「いや…横座ってもいいか?」
「いいですけど。」
不思議そうな顔をしながら、ゆっくりこちらを向く彼女。
振動でマッチを起こさないためだろう。
そこまで気を使う様子に、胃がムカムカする。
意図せず、声を発した。
「疲れないのか?」
「大丈夫です。それに、あったかいですから。」
少し口角を上げながら、小さな声で返ってくる言葉。
抱きつかれていて、疲れないなんてあり得ないと思うんだが。
つまり、慣れてるってことか?
どちらにせよ、イライラとする気持ちは抑えられない。
ふと、氷雨が首を傾げて聞いてくる。
「トリコさんて身長高いですよね?」
「ああ、まあ、2m越えてるからな。」
「大台…マッチさんも結構高いですけど、2mいってないので、新鮮です。」
「そうなのか?」
「はい。なのでこの通りすっぽり包まれちゃうんですよ。」
えへへ、と照れくさそうに笑う氷雨に、俺ならもっと包める、なんて思った。
が、言うことが出来るはすもなく。
少し恥ずかしそうに嬉しそうに笑う彼女に1つの考えが浮かんだ。
意を決して聞く。
「……恋人、なのか?」
「へ?」
「その、マッチと…、」