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鋭い目をしながらも俺を気遣うように言葉を続ける男。
そのアンバランスさに口元が歪む。
今度はその男に手を差し出す。
「律儀なヤクザだな。」
「名はマッチだ。よろしくな。」
「ああ、お互い力を合わせて行こう…!?」
その手を握られる瞬間、マッチは氷雨を抱きしめた。
一瞬驚いたようにする氷雨だが、反抗する様子が見えないので、なれているようだ。
事実に思わず言葉を詰まらせる。
抱きしめたまま頬を緩めたマッチは俺を見上げ、にやり、と笑う。
こいつ…!
ふと、氷雨が動く。
きゅっと、マッチのスーツの裾を引いた。
それに反応し、柔らかな声を出すマッチ。
「どうした?」
氷雨は固まってから、顔を真っ赤にした。
意図せず、眉間に皺が入るが、彼女はあ、と小さな声を漏らしマッチを見つめている。
それから、頭を左右に振った。
マッチが仕方ない奴だとでも言いたげに微笑んだのを見て、彼女は視線をそらす。
少し経ってから彼女は誤摩化すように早口で囁いて、飛び上がった。
一度チラと、こちらを見て、笑う。
その挑戦的な笑みに俺は多分、見とれた。
重力を感じさせない氷雨の独特の跳び方。
寒そうな服装だが、彼女は寒くないのか、船の中で見た時と変わらない。
「惚れたか?」
幾許かの沈黙の後、マッチの声が後ろから響く。
からかうような声色と、牽制の色合いが混ざりあって、男独特の響きを持ったそれ。
俺は振り返って、さあな、と答える。
その嘘に気がついたのか、マッチは意味深に笑った。
余裕だってことか…?
「中途半端な気持ちなら、諦めた方がいいぜ。」
目を細め、緩やかにつり上げられた口から告げられた言葉。
異常なほど、癇に障った。
理由は今考えてもわからない。
「誰が、中途半端な気持ちだって?」
そう言ってから気がついた。
これでは惚れたと言っているようなものではないか。
マッチは満足そうに口角を歪めた。
だろうな、と言う言葉はすべてを知っていたとでも言いたげで。
俺が何かを言う前に、そろそろか、と上がってしまった。
思わず睨め付けるように見上げる。