胸うさ | ナノ



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「俺の名前はマッチ、お前は?」

さら、と手慣れたように動くボールペン。
やはり筆記は出来るようだ。
綴られた名前を差し、それから自分の顔を差した。

「氷雨。」
「氷雨?お前の名前か?」

確認すれば、頷く。
そうか、これで名前はわかったが…一応人間なのか?
名前的にも女性であることだし、それほど強くあたるのは出来ない、か。
何で此処に来た?と言う俺の質問にボールペンを取る。

<ひとに道を聞いたとおりに来たら、此処についた。>
「は?人にって、どんな奴だよ。」
<師匠。恐ろしく強い。まっすぐ進めといわれた。>
「まっすぐって、そんな大雑把な…。何か欲しいもんでもあるのか?」
<別に、人間に会いたいって言ったら、こうなった。>
「…人間に、ねぇ?お前、人間じゃねぇのか?」
<わからない、一応人間だと思っている。>

人間だと思うって、お前、育ててくれたのは人間じゃないって言ってるようなもんじゃねぇか?
しかも、大雑把すぎるだろ、師匠とやら。
単語は師匠から教わったってこと、なんだよな…。
ってことは、師匠も口下手なのか?
…そんなこと考えてる場合じゃないな。
ふと、それが続きをかいてることに気がついた。

<此処の人たちに危害は加えない。この辺で、生きている食材が豊富な場所は無いか?>
「あ?猛獣で良けりゃ知ってるけどよ。」
<知っているなら教えていただきたい。こう見えてもある程度力はある。>
「…わかった、いくぞ。」

ちょうど良くついた、3人を呼び、荒野に案内することを伝える。
あそこですか、と言う声にああ、と1つ頷いた。
シン、ラム、ルイはそれを見る。
ぴく、と肩を揺らし、しかしそれでも彼女の目は鋭い。

連れていったのは、ここらでも有名な凶暴な生物がいる荒野。
崖によって登ってこれねぇから安心していられるが、落ちたら即死だ。
なんて思いながら、それがどんな反応を見せるのか確認する。
刀に手をかけつつ、いつでも抜刀できるようにしておく。
それは引き寄せられるように崖ギリギリに立った。
暫く無表情でいたかと思うと、くるり、振り返る。
戦闘態勢に入った。
が、それは、目を細める。
俺なんか相手にならないってことか?

「感謝。…待機。」

そういい、俺から視線をそらすそれ。
不審に思って、見続けておく。
髪を適当にまとめあげ、何処からとも無く取り出した薙刀を形にする。
何処に、隠していた…?
俺たちの焦りなんて歯牙にもかけず、それは跳び上った。
異常な程にふわりと、宙を漂うに跳び上るそれ。
一ヶ所を睨むようにして、薙刀の柄を地面に向ける。
獲物を待っていたかのように走ってくる此処らで危険だと言われている生物の一種。
それに柄を静かに打ち付ける。
と、生物が吹き飛んだ。
力がありすぎる、だろ。

「シン、ラム、ルイ、武器は構えておけ。」
「マッチさんは、下がっていてください。」
「そうですよ、俺たちがまず反応を見ますから。」

そう言ってアイツらは俺の前に立った。
降りて行ったときのようにふわりと飛び上がって帰ってきたそれの手には予想以上に大きい獲物。
しかし、それ以上に驚いたのは素顔だった。
まっすぐな目は俺たちを射抜き、風で揺られる髪は光に当たって銀色に見える。
緩やかにつり上がっている口角は穏やかさすら感じさせた。
どすん、と目の前で音がする。
俺たちのことをじっと見つめた。
そして、小さく口を開く。
俺たちの中に緊張が走った。

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