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「お礼。」
「っ、…は?」
「場所…お礼。」
「これ、一頭くれるのか?」
こくり、頷く彼女。
毒気が抜かれた、と言えばいいのだろうか。
きょとんとしている彼女を見ると、どうやら最初から俺たちに渡すために狩ったものらしい。
俺が耐えきれず笑えば、3人もつられたのか、笑う。
すると、彼女は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、獲物を見た。
それから俺たちを見て、次にまた獲物に目を向ける。
それがより、笑いを誘う。
思わず、謝罪の言葉が口をついた。
「すまなかったな。」
彼女はますますもって意味が分からないと言うように首を傾げた。
「?何故?」
「…いや、なんでもねぇ。」
俺たちがそんなことしていると、3人が獲物を持ち上げようとしていた。
が、どうやら3人掛かりでも持ち上がらないらしい。
「お前ら、それ、持ち運べそうか?」
「無理です。」
即答だった。
俺は多分引きずれるだろうとは思うが…。
と思いながら、気になって彼女を見れば衝撃を受けた顔をしていた。
普通に持てるものだと思っていたんだな…。
まあ、人間に関わっていなくて、他と比べる時間も機会もなかったのだろう。
観察していると、考え込んだ後。
気がついたようにシュンとした。
どうやら、俺たちだけでは運べないことに気がついたようだ。
此処に残るつもりだったのだろうな。
というか、彼女の落ち込み方が、叱られた子供と同じで微笑ましくなる。
思わず、口元を緩めながら、彼女と目をあわせる。
彼女は眉を下げ窺うように俺を見た。
「なあ、これを運ぶの手伝ってくれないか?」
「…なぅ?」
「っ、」
ネコか?!
なんて突っ込みを入れそうになったが、それ以上に破壊力が大きかった。
首を傾げながら、オカシなことをしているという考えは無いのだろう。
純粋に俺を見上げる目。
彼女が妙齢の女性であることもあるのだろうが、イケナイことをしているようにしか見えない。
思わず、顔をそらした。
後ろからアイツ等のひそひそとした声が聞こえる。
「そういや、マッチさんって小動物好きだったよな。」
「ああ、ありゃ完璧に鳴き声だったから、仕方ないだろ。」
「いつ首輪買って来いって言われても、驚かないぞ。」
ラムはまだ許す。
シンも、まあ、いい。
問題はルイだ、流石に俺はそこまで可笑しくなっちゃいない。
思わずルイを睨む。
声が聞こえたことに気がついたのか、3人が焦ったように視線をそらした。
彼女は聞こえていなかったのか、獲物を担いでいる。
そのまま、なるべく人通りが少ない道を通りながら俺の家にもう一度帰った。
家の前で手際よく獲物を捌く彼女と、それを見ている俺。
それから、切り分けられた肉を室内に運び込む3人。
捌き終わった後、キッチンに行くと、四苦八苦して調理しようとしているアイツらがいた。
そんな奴らの肩を叩き、場所を変わったのは彼女。
さら、と手際よく、様々な料理を作り出す。
その手際に見惚れ、最後まで見ていた。
出来上がった料理は、素材もあるのだろうが、かなり美味かった。
3人の視線を感じ、ああ、と頷いてやると、嬉しそうに笑う。
子供たちに分けるために外に行くと、彼女も気になるのか、着いてきた。
そこで様子を見て、何をしているのか気がついたのだろう。
3人に混じって料理を配っていると、子供たちに戯れ付かれていた。
それが終わって、俺は思わず、声をかけていた。
「なあ、氷雨。」
「?」
「暫く、此処に居ないか?」
「此処?」
「ああ、俺といないか。」
「ん、よい。」
(名前を呼んだときの顔が少し嬉しそうに見えたのは、俺の気のせいか)
(それとも、俺の気持ちに変化があったからなのか)
(答えは、生活していれば見つかるだろう。)