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「まっちさん、まっちさん」
嬉しそうに笑いながら、マッチの頬に、首筋に唇を柔らかく触れされる氷雨。
マッチはため息を吐きながら、額に手を当てた。
呆れているように見えるのだが、反対の手はしっかりと拳を握っている。
時折、力を入れているのか、筋が浮かび上がる。
「氷雨、」
「なぁに?まっちさん」
普段はあまり見せない甘えた表情で、じっとマッチの目を覗き込む氷雨。
思わずと言ったように額に当てていた手で、彼女の視線を遮った。
それから、反対の手で彼女の体の向きを変えさせ、背中から抱き込む形にする。
が、氷雨は不満なのか、少し不機嫌そうな表情をして、首を逸らした。
「顔見えないの、や。」
「っ、わかった。」
「えへへ、まっちさん大好きー。」
マッチの立てた膝に背中を預け、両足は反対の膝の下を通した彼女は幸せそうに笑う。
嬉しそうなまま、マッチの手を玩具にして遊んでいる。
次の瞬間、ちゅ、と指先に口付けた。
「氷雨、」
少し苛ついたように彼女を呼ぶ声。
マッチのものではない、低い声に氷雨は首を傾げて視線を動かす。
トリコに対し、きょとんと目を丸くした彼女は、マッチを見た。
まるで、幼子が初めて見た人間に対するような反応に、沈黙が落ちる。
「酔ってるときは、俺とさうにしか話しかけないんだよ。」
はあ、とため息を吐きながら告げたマッチは、不安そうな表情の氷雨の髪を撫でた。
その手に擦り寄るようにして、頬を緩ませる彼女。
そして、次の瞬間まるで、スイッチが切れたかのように脱力する。
「…やっと寝たか。」
全く手間のかかるお姫様だな、と愚痴るように小さく零して。
マッチは氷雨を3人の近くに寝かせた。
穏やかな寝息を立てる彼女の隣に座って、ちらりと視線を向けてから、不適に笑う。
その視線を向けられた先に居たトリコは、悔しそうな表情で息を吐いた。
(「あれって、あからさまに挑発してません?」)
(「滝丸さんもそう思いますか」)
(「……」)
(「どうかしましたか、鉄平さん?」)
(「どうせくだらない事ですよ」)
(「でも、聞いてみないとわからないですよ?」)
(「何かわかったとかじゃないですよ、絶対」)
(「酔った氷雨ちゃんかわいかった!」)
(「ほら、くだらない」)