胸うさ | ナノ



3
しおりを挟む


「氷雨!」

その声に振り返る。
肩で息をするようにしたマッチさんが其処に立っていた。
確実に走り回って探してくれたのだろう。
いつもはきっちり閉められている首許が、少し緩められていて。
その姿に力の抜けるような、泣きたくなるような、救われたような、つまり、安堵した。

「〜〜〜〜〜っ、マッチさぁん!!」

ぎゅう、と抱きついて、ごめんなさい、と謝る。
マッチさんが慌てたように、大泣きする私の頭を撫でた。
その手の感触に、ほっと息を吐いて、もう一度謝る。

「そんなに泣くな、な?」
「だって、ごめんなさいぃ。」
「俺は怒ってねぇよ。ほら、どっか座れるところに行くぞ。」

よしよし、とそのまま簡単に抱き上げられて、近くのお店に入った。
強面で傷だらけのお兄さんと、泣いている女性、しかも抱き上げられている。
と、言う訳で、若干怪訝そうな目で見られた。
気がついて知り合いだと、言外に伝えるためにマッチさんに話しかける。

「マッチさん、大丈夫、です。」
「そうか?」
「はい、ごめんなさい、いきなり泣いたりして。」

窺うように見て謝る。
いつものごとく甘く微笑んで、マッチさんは私の頬を撫でた。

「…お前の涙は苦手だ。」

だから、泣かないでくれ、と目尻に唇が落とされる。
何があったのか理解できず、固まったあと、状況を理解して赤面。
ぎゅう、とマッチさんの首許に額を押当てた。
何となく、気のせいだけれど、店員さんの目が生暖かくなったような気がする。
…いや、きっと気のせいに違いない。
そのあと、私はこれからは気をつけろよ、という簡単な注意を受けて、用事を済ませてネルグに帰った。

[前へ]/[次へ]

[ back to menu ][ back to main ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -