胸うさ | ナノ



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数日後、落ち着いてはいるものの、時折、酷く頼りない表情になる氷雨に、マッチが何かを差し出した。
突然のことにキョトンと首を傾げ、見上げる彼女に小さな箱を持たせる。

「約束は守る。」

目を細めるマッチに、氷雨は視線だけで問いかけた。
しっかりと頷いた彼に、そっと箱を開ける。
中には赤と青のピアスが入っていた。
何度か瞬いて、確認するように見上げる。

「私の…?」
「ああ、お前のものだ。」

じっと、ピアスを見つめる氷雨に、マッチは補足するように伝えた。

「片方はこの家にでも、置いておけ。」

その言葉に彼女は首を傾げる。
マッチは胸ポケットから一枚の紙を取り出して、差し出した。
それを受け取り、目を通した氷雨は焦ったように彼を見る。
その紙には『マグネットピアス』と書いてあり、氷雨の手の中にあるピアスと同じものが写っていた。
互いを引き寄せあう、マグネットルビーとマグネットサファイアが使われたそのピアスは、帰還のお守りとして知られている。
片方を身に付け、もう片方を家に保管しておくことで、必ずその場所に帰れる、というジンクスがあるのだ。

「いい、の?」

涙ぐんだ目で唇を噛み、見上げながら、氷雨はマッチに聞く。

「じゃなかったら、やるわけがないだろう?」

ふ、と笑ったマッチに氷雨は反射的に抱きつく。
難なく抱き留めた彼は、彼女の耳に触れた。

「ありがとう、マッチさん、」

満面の笑みでマッチを見つめる氷雨は、目を見開いたマッチに気がつかない。
彼女の顔に、淋しそうな色はなく、明るいものになっている。
マッチはきらきらと輝かんばかりの氷雨の視線に小さく笑って、顔を近づけた。
ふわり、羽根が触れるような柔らかなキスを彼女の額に落とす。
その行動に氷雨は照れながら、困り顔を浮かべた。

「マッチさん、」
「…悪いな、」

悪びれず、口先だけで謝るマッチに、氷雨は少し不満そうに見上げ、気がついたように彼の左耳に触れる。
それから、マッチさん、と穏やかに笑った。

「なんだ?」

首を傾げたマッチに楽しそうに、しかし真剣な目をして、箱から青いピアスを取り出して、手を伸ばす。
耳に宛がい、小さく頷いた。

「此方、マッチさんがつけて。」

ころん、とマッチの掌に片方を転がし、幸せそうに笑う。

「私の、帰るところ。」

恥ずかしげもなく、言い切った氷雨に思わず赤面したマッチだった。


数日後、スキンシップが増えたマッチは氷雨の頬に手を添え、ピアスを見る。

「似合ってるな。」

それに喜色を浮かべ、彼女も彼の口許に手を添えた。

「マッチさんも、似合ってる。」

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