胸うさ | ナノ



お揃いのもの
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お揃いのもの

まだ、氷雨がちゃんとトリコの世界の言語を話せなかったとき。
どこか、迷子のような表情をすることが多かった。
決まって、一人の時にだけ浮かべられる。
その淋しそうな笑顔の存在は、ネルグの子供たちによって知らされた。
マッチたちに、お姉ちゃんは淋しいの?と聞いた少年は、中でも彼女になついていた。
泣きそうな表情で何処かを見つめる氷雨にあるとき、マッチが近づいた。

「氷雨?」

声をかけると、嬉しそうに笑う。
それから、マッチさん、どうする…どうしました、と拙い口調で首を傾げた。

「………隣、いいか?」

マッチは何と告げればいいのか、わからなくなりそれだけを告げた。
こくり、頷いた氷雨は少し隣にずれて、マッチが座りやすいようにする。
足が触れ合い、腕が当たる距離に二人座って、沈黙した。
言葉はないが、氷雨は口許を少しだけ緩める。
静寂を破ったのは氷雨だった。

「マッチさん、」
「、なんだ?」
「あり、がとう…ございます。」

ぎゅ、とマッチのスーツを引きながら、泣きそうに笑う彼女。
その表情はどこか嬉しそうで、幸せそうな空気が伝わる。
息を飲んだマッチは静かに彼女に手を伸ばした。
柔らかに大切なものを触るよう丁寧に、氷雨の髪を撫でる。
擽ったそうに照れ笑いをした彼女は、もっと、と言うようにその優しい手に擦り寄った。
マッチがその手を下げ、頬に触ると、氷雨はその手に自分の手を重ねて、微笑んだ。
彼女の体温がじわり、とマッチに伝わる。

「ありがとう、」

もう一回、伏し目がちに笑みながら、ゆっくりと告げられた言葉は彼の心に波を立てた。
意識しないまま、自分の腕を、彼女に添える。
不思議そうに目をあげ、見上げた氷雨の腰に手を回し、引き寄せた。
苦しそうな体制をした二人だったが、どちらからも不満はない。

「マッチ、さん?」

不安そうに口にする彼女の耳元で囁く。

「俺がいる。」

びくり、マッチの腕の中で氷雨の肩が揺れた。
力を込めて、逃げようとした彼女を捕らえる。
畳み掛けるように囁く。

「大丈夫だ、一人じゃない。俺が傍にいる。」
「…うん。」

小さく頷いて、嬉しそうな表情を浮かべる氷雨。
だが、どことなく不安定な印象を受ける。
自身の肩辺りに額を置かせて、もどかしいほどゆっくりと髪をすいた。
その動きか、それとも体温か、氷雨が徐々に体の力を抜く。

「マッチさん、」

おずおずと、マッチに手を伸ばし、ぎゅと服を掴み小さく何かを呟き、うとうとと目を伏せる。

「……、氷雨。」

一度眉を寄せてから、マッチは彼女を抱き上げ、部屋に入った。

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