正義 | ナノ



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私の言葉に、たしかにのぅ、と頷いた童虎さまは主にシオンのせいじゃろうな、と笑った。
それに肯定も否定もせずに笑って返す。
個人的にはそうだろうなとは思っているけれど。
童虎さまは楽しそうな顔のまま、手を伸ばしてくる。
なんだろうか、と思いながらその手を取ると、そのままグイッと引っ張られて、クルッと回されて、彼の前に同じ方向を向いて座っている状態に。
童虎さまは胡座をやめているので、完全に足の間に私がいるような状況だ。
そのまま背中側から頭が押しつけられる。
彼の手がくるり、とお腹のあたりに回ってくるが、色恋を全く感じない。
と言うか、これはあれだ、気に入ったぬいぐるみをギューってしてるのと一緒だ。
そう言えば、童虎さまは未だに一年が一日のままなのだろうか。
言い方は悪いが、一回死んでリセットされなかったのかな?
外見的には20歳になっていないし、変わっていない可能性が高そうだけれど…とても辛いものに見える。
だって、友人を何度も見送らなくてはならなくなったわけで、一回見送るだけだって嫌だろうに。
それすらも受け入れられてしまうほどに悟ってしまっているのだろうか。

「こんなに速くては、すぐに寿命が尽きてしまうだろうに」

感情の乗っていない、ただ、その事実を口にしていて。
そうですねえ、とこちらも特に意味のない肯定で返した。
心拍数が戻っていないのなら、彼の肉体的には3ヶ月する頃には私たちはほとんどが死んでいるだろう。
シオンさまみたいに根性で生きられたとしたら、それは違うだろうけれど。

「童虎さまとお話しできなくなるのは少し寂しいですねえ」
「…少しだけとは、寂しいのぅ」
「それくらいの方が気楽でしょう?私が立ち直れないくらい寂しがったら、皆さんの立つ瀬ないですよ」
「あやつらのことじゃ、」

そんなことはなかろうよ、とそう続けた童虎さまだが、私の背中に押し当てられた耳は動かない。

「そんなことないと思いますよぉ。少し居ただけの私が、情が深いって感じるくらいですから」

間延びさせた語尾で返しながら、お腹に回っている手をポンポン、と叩く。
叩く度ぎゅうと腕がキツくなる。
と、私の視線の先からひょこっと顔が出る。

「…あれ?氷雨お姉ちゃん?」
「貴鬼君、こんにちは」
「後ろに誰かいる?」
「童虎さまがいるよ」
「ふぅん」

少し拗ねたような顔ににっこり笑って手を広げる。
呆れまじれのため息の後、戸惑ったようにしながらも、私の求めていることに気がついているのだろう、おずおずと近づいてくる。
そして、私の前に来て、目を逸らす

「氷雨お姉ちゃんは寂しがりだから、仕方ないなあ」
「ありがとー!」

言うが早いか、ぎゅう、と抱きしめる。
筋肉のついてきた体は柔らかい癒しとは遠くなってきたが、それでも、どこか安心する。

「…何をしてるんですか」

やれやれと呆れたような声をかけてきたムウさんに顔をあげる。

「童虎さま、ムウさんがいらっしゃいましたよ」
「断る」
「…私は来て早々喧嘩を売られたと言うことで間違いありませんか」

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