正義 | ナノ



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笑って、その顔を見る。
驚いたような表情をしているのを見ながら、私は、立ち上がって宙へと視線を逃す。
きっと彼は全てから置いていかれている。
そして、忘れてしまうことを悲しんでいるのだろう。
もちろん、折り合いをつけているし、私より上手に対応しているのもわかる。
けれど、彼の肉体を考えれば、彼はまだ、子供と言って過言ではないのだ。
肉体も精神も疲弊してしまっているようだけれど、それでも。

「童虎さまは、とてもすごい方ですね」
「う、む…?」

ちょっとくらい、甘やかしてもきっとバチは当たらないだろう。
そう思って、私を見上げる彼の髪をそっと撫でる。
意外に硬い髪質だな、と思いながらも撫でて、体の硬さが解けたところで、その頭を抱き込んだ。
一瞬にして動きを止めた童虎さまがされるがままになっているのが少々面白い。
けれど、彼の耳が私の心臓の上に来るようにぎゅうと抱きしめる。

「少しだけ、休んでもいいんですよ?」

無言になった彼の髪をゆっくりと撫でる。
なお、こちらは一輝君すら眠らせることのできるある意味最強の子守唄である。
歌ってないけど。
おずおずと私の背中に手が回って、私の心音を聞くことに集中している様子が伝わる。
早いなあとか、思ってくれたら、それだけで十分だ。
ぎゅう、と力が篭って、引き寄せられる。
おっとと、胡座をかいている彼の足をまたぐようにして、素直に近づいた。
髪を撫でていれば、そのうちに穏やかな規則正しい呼吸に変わる。

「おやすみなさい」

問題はこの体勢がかなり鍛えられると言うことだけだ。


20分ほどで、私の足が限界を迎えた。
プルプルしている。
おかしい、昔はこの体勢で30分は行けたはずだ。
筋力が落ちている…?
可能性はあるな、だって私本当に歩いてないもの。
なんて思っていれば、ふすふすと笑いが堪えきれずに漏れる音が聞こえる。

「童虎さま、起きてるなら手を離してもらっていいですか?」
「いやだ」

17歳の顔で、ぷくぅと頬を膨らませて告げる彼。
クッソ可愛いな、やめてくれ。
なんて言えないので、困った顔を返す。

「もう少しだけ、」
「…そのお願いを聞きたいのは山々なんですが、本気でそろそろ足が限界でして」

離してもらってすぐ、後ろに倒れるようにして、距離を置く。
プルプルしている足を撫でるようにしながら閉じて、正面からその顔を見る。

「ムウさんとか母性強そうなので、お願いするといいですよ」
「…おぬし、」
「ムウさんがお母さんで、シオンさまがお父さんで、貴鬼君が子供って言う家族観が妙にしっくり来るんですよね」

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