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だが、気を取り直したように、君が、機会を設けてくれたと聞いた、とそのままの体勢で告げる。
「当然だろう?君は“わたし”の特別なのだから」
その額に口付けて彼女は距離を置く。
突然の行動に空気が固まった。
「…あれ?ああ“わたし”ですね、突然切り替えるのやめて欲しいんだけどなぁ」
氷雨は不思議そうに首を傾げて、自分の机まで戻り、椅子に座る。
アイオリアとアイオロスの様子をちらりと見て、大丈夫だと判断したのだろう。
解決おめでとうございます、なんて暢気に告げて、自分は仕事に集中し始める。
きっといつも通りに5分もすれば周りの音なんてほとんど耳に入らなくなるのだろう。
そんな彼女であっても、さすがにその場の視線が自分に集まっていれば気がつくのか、不思議そうに顔を上げて首を傾げた。
「どうかしましたか?」
「どうかしましたかって…お前…サガ見てみろ」
カノンの言葉に彼女はサガの方を見る。
額を両手で押さえそのまま机に突っ伏している。
「どうかしていますね」
「…お前のせいだろう?」
「え、私ですか?」
何を言われているのか、全くわからない、と言いたげに眉を寄せた彼女は、そのまま黙り込む。
それから、すぐにその雰囲気を変えた。
「…あれくらい、なれていると思ったんだが…三十路、だったはず、だな?」
「普通の女相手ならああはならないだろうな」
意味深に眉を寄せたカノンに不快そうな表情を浮かべて、それから、納得したように彼女は鼻で笑う。
「特別とは言え、それはキャラクターとしてだけだ。他意は一切ない…それに、同じ理由で君も特別だよ、双子弟」
「…っ、お前なぁ!」
「私に振り回されるのは、期間限定なのだから、深く考えすぎるな。疲れるだけだぞ」
どこか寂しそうな表情で微笑んだ彼女は、首を左右に振る。
それからすぐにいつもの皮肉めいた笑みを浮かべて、仕事に戻った。