正義 | ナノ



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「それは本質ではなかった。俺はただ、兄さんに謝ってほしかった」
「…え?」

戸惑った声は、アイオロスから発せられる。
想像していなかったことを言われたのだろう。
何度か瞬いている様子には、先ほどまでの重たい空気はない。

「兄さんのあの時の選択は間違っていないとわかっている。それ以外に選択肢がなかったのだろうと、考えることだってできる。ただ、それは理論的に全てを考えられればの話だ」
「リア…」
「それに、謝ってもらえなければ、俺は、兄さんを許すことさえできないだろう…?」

男らしい顔を悲哀に染めて、弟は兄を見つめる。
目を大きく見開いたアイオロスは、言葉を失ったように立ち尽くす。
その反応にアイオリアは、泣きそうな表情のまま、続けた。
まるで、沈黙は兄弟の絆を裂くものだと言わんばかりに。

「元に戻りたいのは、俺だって同じだ。昔から兄さんの隣に立って、同じ景色を見たい」
「…そこまでにして置いたほうがいい」

続ける言葉を止めさせたのは氷雨だ。
無粋とも言える横槍だが、アイオリアは彼女に怒ることなく視線だけを向けた。
その視線を受けて、彼女が普段は見せないような呆れたような柔らかな微笑を浮かべる。

「ほら、“英雄殿”がいろんな意味で死にそうだ…主に罪悪感でな」
「…これが、君の本質なのか」
「それはどうかな。“私”は“アイオリア”に似ているが、“わたし”は“もう一人のサガ”だ。そう決められている」

口元に歪んだ笑みを浮かべて、彼女は肩をすくめた。
それから、すぐに、視線をサガの方へと向ける。
一瞬寄せられた眉を意に介さず、氷雨はそちらへ近寄った。

「先日、“牡羊座”と“牡牛座”と話しただろう?」
「あ、ああ」
「どうだった?恨まれていた?…その様子では、違ったようだね」

ふ、と微笑んで見せた彼女は、ふわりと青い髪を撫でる。
そのまま滑らせた手のひらがゆっくりとサガのを通って顎へ。
力の籠らない彼女の誘導に従うように端正な顔が上を向く。
と、すぐ近くに目を見張るような柔らかな瞳があり、サガは言葉を失った。

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