正義 | ナノ



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後ろからかけられた声に、そちらを見ながら、手元の紙を折りたたむ。
カバンに入れて、よいしょ、と立ち上がった。
スカートを軽く叩いて、こちらをじっと見つめているアイオロスさんを見上げる。
私が立ち上がったからか、サガさんとカノンさんも立ち上がる音が聞こえた。
が、ニコニコしたままのアイオロスさんが恐ろしい。
なぜそんないい笑顔でこちらを見つめてくるのか。

「何をしていたんだい?」
「えっと、精神的な話ですかね?」

へらり、と笑っておく。
この話は個人的にあまりしたいものではないし、特に自分自身が苦手意識を持っているアイオロスさんには話しにくい。
だからと言って、あの状況を見られて、なんでもないですとも言えないで。
口元に笑みを浮かべたままに、どうしたものかと眉を下げる。
アイオロスさんは驚いたように一度瞬いて、ゆっくりと私の頭に手を置いた。

「別に話せとは言わないよ」

苦笑まじりに告げるアイオロスさんの顔は、どことなく寂しそうで。
いたたまれない気持ちを覚えながらも、話せないものは仕方ないのだからと、感謝だけにとどめる。
へらり、笑って、ありがとうございます、と告げた、瞬間。

「わっ」
「サガ?!」

背後から突然腕を引かれて、ボスッと誰かに抱きとめられる。
同時に響いたカノンさんの声からすれば、この手はきっとサガさんのもので。

「はっ!…す、すまない、氷雨」

首を動かして、サガさんの顔を見る。
非常に驚いた顔をしているあたり、無意識か、彼かのどちらかだろう。
慌てて手を離してくれたあたりを見れば、無意識。
昨日の、あの内容はやはり、彼一人のものではなく、サガさんとしての願いなのだろう。
これは…区別してはいけないのかもしれない。
そう思って、ゆっくりと振り返って手を伸ばす。
柔らかく、彼に微笑む時のように甘く。

「大丈夫ですよ、サガさん」
「っ!」
「大丈夫です」

そっと青い髪を梳く。
とはいえ、この状態のサガさんにどこまでしていいものか。

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