正義 | ナノ



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だいぶ持ち直したらしく、表情から焦りが消えたサガさんが小さく笑う。

「ありがとう」
「…どういたしまして?」

こう返すのが正解なのかはわからないが、返事はした方がいいだろうと思うし。
根本的な問題は、多分すごく単純だ。
でもというべきか、だからこそというべきか、決して簡単には解決できないもので。

「氷雨」
「はい?」
「…いや、なんでもない、すまない」

何故か謝ったサガさんにどうかしたのだろうか、と考えるも、特に思いつくことがない。
なんとなく引っかかりがあるのだが、それが何かはっきりしない。
はあ、と煮え切らない返事をした時に、おはよう、とディーテが執務室に入ってくる。
その顔を見て、はっとした。
昨日、私は彼らに“彼”だったときのサガさんの様子を聞いたのだ。
内容としては当時の女性関係や性格、言動が中心だけれど。
引っかかりは、“彼”だ。
先ほどのサガさんの態度を考えると、ここは多分、どちらとも区別せずに甘やかすべきだろう。

「サガさん、」
「なんだ?」
「少し仕事で聞きたいことがあるので、隣失礼しても?」
「…ああ、」

柔らかく微笑んで頷いてくれたサガさんにニコリと笑ってありがとうございます、と伝える。
サガさんの近くの席に陣取って、少しだけ頭を悩ませる。
どこまではセーフだろうか…。
むしろどこからがアウトなのかを考えた方がいいかな…。
後でリストアップしておこう。
手元の書類から聖域のことで聞いておかなくても問題はないが、聞いておいた方がいいことを質問。
予想の範疇の返答が返ってきてほっとしながらも、自身の仕事に戻る。
三時くらいになって、ふと、一息つく。
紅茶でも入れようと席を立って、仮眠室に足を向けた。

「休憩、か?」
「はい、紅茶でも淹れようかと」

私の言葉にサガさんは逡巡するように、視線を彷徨わせる。
言葉を暫く待てば、顔を上げたサガさんは眉を下げながら言う。

「もしよければ、私の分も、淹れてくれないだろうか?」
「…ええ、もちろんです。ミルクと砂糖はどうします?」
「頼む」
「わかりました、ちょっと待っててくださいね」

私はにっこりと笑って仮眠室の扉を開いた。

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