正義 | ナノ



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ぎゅう、と握られた拳。
だが、視線は真っ直ぐに私に向けられていて。

「今はあの時とは違う。俺たちは子供じゃない…もう、庇護下に入れられて、守られるだけじゃない」
「はい」
「…だが、気がつけなかった俺が、何かしても、いいのだろうか?」

泣きそうな印象を受けるその声に、 真剣に向きあう。
行動を起こすことは悪くないだろう。
でも、今行うその“何か”はしっかりと本意で伝わるだろうか?
今現在のサガさんの状態がはっきりしない以上、下手な行動は取り返しのつかないことになるかもしれない。
勿論、早急に解決する可能性がゼロとは言い切れない。

「…行動を起こすこと自体は、いいと思います。アルデバランさんが、昔と違う、というのは事実でしょうし」

サガさんの望むことの一端として扱うことはできる。
問題は、それが氷山の一角なだけであって、決して根幹ではない、ということだ。

「今は、するべきじゃないのか?」
「まだ、“彼”とも“サガさん”とも、私は会ったばかりで、望んでいることがわからないのです」

下手に行動すると、複雑になりかねない、と言外に告げる。
アルデバランさんは、そうか、と落ち込んだように頷いた。
数秒、うつむいたかと思えば、すぐに顔を上げる。

「なら、俺はどうすれば良い?」
「アルデバランさんは、どうしたいですか?」
「どう…?」
「サガさんにどうなってもらいたいのか、という問題です」

それによっては、私の意見と対立するでしょうから、私の意見は聞かなかったことにしてください。
真っ直ぐにその顔を見つめる。
どう…と小さく口にしたアルデバランさんは視線を彷徨わせて、首を左右に振った。
決めかねるのだろうか。
きっと彼らは付き合いも長い分、余計悩むのだろう。
難しい顔をしている彼の二の腕あたりに手を添える。
私の方を見たアルデバランさんに小さく笑いかけた。

「焦る必要はありません。時間をかけていいですから」
「…そうだな!」

ニカッと笑うその顔は明るくて。
つい、へらり、と気の抜けた笑顔を返す。
と、教皇宮の方を見つめるアルデバランさんはすっと立ち上がって、私に手を伸ばした。
出された手に自分の手を重ねる。
少し色黒な日に焼けた大きな掌に、自分の日光に当たらないせいか白っぽい小さい手。

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