正義 | ナノ



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翌日、ムウさんが予告通りの時間に現れた。
コンタクト装着状態で扉を開けると少し驚いたような表情を浮かべられる。
眼鏡ないとイメージ変わりますよね、なんて思いながら小さく頭を下げた。
わざわざ迎えにきてもらって、申し訳ないという気持ちになる。
だが、そうしなくては下に降りられないというのも事実で、ただただ、ありがとうございます、というのに決めた。
失礼します、と言いながら、軽々と私を抱き上げたムウさんに驚きながら、一瞬体が固まる。
拳で岩を割る聖闘士だものね…優男に見えても聖闘士だものね。
あの瞬くんですら、普通に私を抱き上げられると言うくらいだもの。
やられたことはないけど、一輝くんと紫龍くんはある。
閑話休題。
そういえば貴鬼くんに合うのは、3年ぶりではないだろうか。
日本に来ていたとき城戸邸でよく会っていた…というか会いに行っていた。
詳しいことは知らない少年が、時折酷く物悲しそうな顔をしていたり、空元気を見せていたりしたのだ。
今から考えると、時期が時期だったので、幼いなりに気を張っていたのだろう。
が、当時の私はそこに気が回ることもなく、とりあえず、彼に構った。
きっと鬱陶しかっただろうな、と思わないでもない。
あのとき、8歳だった彼が、今は11歳か。
きっと大きくなっているんだろうな、と想いをはせていれば、着きましたよ、とムウさんに声をかけられた。
ありがとうございます、ともう一度お礼を言ってから、白羊宮を見渡す。
明らかに生活区域。
ムウさんは、そんな私の様子に一度くすりと笑った。

「貴鬼、出てきなさい」
「で、でも、ムウ様!」

聞こえた声にキョロキョロと周りに視線を走らせる。
が、姿が見当たらない。

「貴鬼くん?」

首を傾げながら、何処かに問いかければ、驚いたような息を飲むような声が聞こえた。
ぱちり、一度瞬くと、いつの間にか目の前に貴鬼くんが恥ずかしそうに立っている。
あの頃よりも身長が伸びていて、でも、まだまだ幼い顔立ちで。

「久しぶり、貴鬼くん」

近づいてよしよし、と頭を撫でる。
彼は、視線を彷徨わせてから、ぎこちなく一度こくり、と頷いた。

「久しぶり…氷雨、お姉ちゃん」
「うん、3年ぶりだよー?貴鬼くん大きくなったね」

まぁね、と鼻を擦って、笑う姿は何処か星矢君に似ていて、眉を下げた。
どうやら、ホームシックにでもなっているようだ。
この年にもなって情けない、と思いながらも、国外に出ているのだから仕方ないかもしれない、とも思う。
関係はほとんど一から築いていて、最近少し安心できる関係が作れたからこそ、なのかな。
なんて、考えたりもするが、やはり、前から私を知っている存在に会えたからだろうか。

「お姉ちゃん、今日は白羊宮に居るの?」
「うん、今日一日お世話になります。よろしくね」

きょとん、とする顔が可愛らしい。
嬉しそうに笑ってくれて、思わず、私も目を細める。

「あ、ムウさんの今日のご予定は?」
「特にありませんが…折角ですから、聖域内の12宮の外を回ってみますか?」

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