正義 | ナノ



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「氷雨、」
「はい?」
「すみません」

呼び止められて謝られた。
きょとん、と首を傾げて、一体何のことだろうと考える。
が、全く思いつかないので、構いませんよ、とだけ笑って執務室の自分の机に戻る。
ふと、ああ、明日のことかもしれない、と頭に過ったものの、むしろ私が謝るべきかと可能性を排除した。
両隣のリアとミロさんの仕事の様子を確認してから、自分の仕事を再開させる。


「氷雨ちゃん!俺、終わった!!」

隣で、嬉しそうな声が響いた。
反対隣でも、何処か嬉しそうな表情をしているリアがいる。
その二人に笑いかけて、明日からも同じようなやり方でやってみてくださいね、と告げた。
のだが、不満そうな表情をされ、思わず首を傾げた。

「暫く一緒に仕事してくれるんじゃないの?」

ミロさんは声まで不満そうで、一度瞬く。
それから、にこり、笑って告げた。

「申し訳ありません、私、明日おやすみなんです」

と、いうか、仕事禁止令を出されたんです。
そう告げれば、二人はぽかん、と口を開いた。
一度小さく頬を緩めてから、あのですね、と説明するために口を開く。
理由としては至極簡単なのだ。
毎日仕事を送る沙織様に、その日の聖域の報告書も書いている。
そこにはもちろん私の行動も書き込んであり、慣れない環境でばたばたと動いていると、体調を崩しやすい、と。
まだまだやらなくてはならない仕事が多い今、倒れて、病院にお世話になることになってしまうと困る。
グラード財団の医療の連携がまだ完全ではないらしく、私のカルテがギリシャにはないため、らしい。
聖域の仕事は休んでいるものの、沙織様の仕事をやっていたり、看病していたり、と結果的には休んでいない。
と、いうことで、沙織様から直接連絡があった。
ちゃんと休んでいることを確認するためにお目付役までつけられている。
苦笑しながらそう伝えれば、二人は少し不満そうに頷いた。
どうやら、仕事が捗ったのがすごく嬉しかったらしい。

「大丈夫です、明日の分も今日渡した紙でお手伝いしますから」

ミロさんがぱちり、一度瞬いた。
対してリアは嬉しそうにそっか、と笑う。
ええ、とだけ返して、サガさんに明日の分の二人の仕事の仕分けさせてもらおう、と決めた。

「氷雨、少しいいですか?」

後ろから、ムウさんに話しかけられる。
振り返って、はい、と頷く。
多分、明日のことだろう、さっき話しておけば良かったのだが、すっかり忘れてしまっていた。
頭の働きが大分鈍くなっているようで、思わず眉を寄せる。

「どうかなさいましたか?」
「いえ、何でもありません。それで、明日、私はどうすればいいでしょうか?」
「そうですね…明日の朝、9時にあなたの部屋へ迎えに行きます」

その後は白羊宮で過ごしてもらうことになります、よろしいですか?
よろしいですか、と言われても、頷くしか道はない。
それに、部屋にいても仕事をしたくなってしまうだろうし、むしろ自力でどうにもできない場所にいた方が確実だろう。
他人の領域で寛ぐのは苦手なのだが…まあ、何とかなるだろう。
ふと、ムウさんが微笑んだ。

「そういえば、貴鬼が会いたがっていましたよ」

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