ひとり | ナノ



04


彼女は名乗った後、手を差し出してきた。
握手というものだと気がついて、その手に手を重ねる。
俺と同じくらいのサイズだったが、柔らかくて、壊してしまいそうだと思った。
素直にそう言えば、驚いたようにして微笑んだ。
細められた目には今までのような嫌悪する意志は感じられなくて。
緩められた口元にはいつものような実験結果に満足しただけの冷たさはなくて。
俺は、変な顔をしたのだと思う。
彼女は少しだけ、慌てたように柔らかく言葉を紡いだ。
だいじょうぶ、おんなはつよいのよ
その柔らかな手で俺の頭を数回往復した。
初めての感触に顔が熱くなって、それでも、どこか浮かれた気持ちになる。
いや、かな?
と、眉が下がっている――これは、困っている顔だと思われる――表情に俺は首を振った。
もう少し、そうして欲しい。
そう、口にすれば、彼女は
ええ、もちろん
と、綺麗に笑った。
俺もいつかそんな風に笑えるだろうか。
なんて、思った気がする。
もちろん、今はそう笑えている…氷雨のおかげで。
それから数回、俺の頭を往復した手は、さらりと、サイドの髪に触れながら離れていった。
ふわりと揺れる銀色が視界にはいって、思わず、頭を下げる。
銀色は嫌いだ。
彼女はとてもきれいな黒髪をしていて、俺もそうだったらよかったのに、と思った。
彼女のように黒い髪だったら、俺は観察対象でもなかったかもしれない。
今までの世話係も、もっと親しくしてくれたかもしれない。
そんなふうに思ったそのときだった。
ぎんいろ、きれいなかみだね、うらやましいな
彼女の声が俺に届いた。

俺が黒髪に憧れるように、彼女も銀髪に憧れるのだと、そう言った。


驚いて、無言でいたら検討違いなことを言われた。
(でも、そのとき俺が持ったのは怒りではなくて、)
(そんな彼女は時折寂しそうに微笑む人だった)

「やっぱり、撫でられるの嫌だった、かな?」

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