ひとり | ナノ



2


ふと、目が覚めた時、氷雨は俺が眠った時と同じように、そこにいた。
手もつないだままで、だけど、外の太陽の位置は随分と変わっている。
申し訳なさと、よくわからない感情で、ごちゃごちゃになった。

「氷雨、」
「セフィロスくん、食欲はある?」

小さく首を左右に振る。
彼女は困ったようにしてから、とりあえず、一回体起こそうか、と笑った。
言われて、いつものように起き上がろうとするが、起き上がれない。
手をついても、難しい。
それに気がついたのか、氷雨が手伝ってくれて、肩に上着がかけられる。
そのまま彼女は俺を背後から抱きしめるようにベッドに座って、飲み物を差し出した。

「水分補給は大切なんだよ。」

言いながら、スポーツドリンクのペットボトルにストローを差したものが口元に寄せられる。
一口飲むと、自分がどれだけ水分を欲していたか、わかった。
ある程度飲んだところで、ペットボトルはサイドテーブルに置かれる。
代わりにすりおろされたりんごがスプーンに乗って、口元に突きつけられた。

「はい、あーんして。」

耳元で聞こえる氷雨の声にびっくりしながら、スプーンを咥える。
ひんやりとしたりんごを何度かそうやって食べて、皿を空にした。

「完食、いいこいいこ」

そっと頭を撫でられて、困ったように声を上げた彼女。
首をひねると、氷雨の常備薬が俺に効くのかどうか悩んでいたそうだ。
宝条からの薬でなければ、飲む、と答えれば、苦笑した彼女は大丈夫、市販のヤツだから、と箱ごと見せた。

「えーっと、セフィロスくんは12歳だから、2錠!」

ころころ、と白い錠剤が俺の体の前で、彼女の手の上に出される。
渡されたそれを掌にのせた。
手に力が入らないどころか、軽く震えている事実に愕然とする。
そのまま薬を飲んで、上着だけ着替えて、布団に戻った。

「あ、お熱測るの忘れてた!」

いけない、と慌てたように体温計を俺に手渡す彼女。
熱を測っている間にベッドの横に椅子を持ってきた。
俺から体温計を受け取って、文字盤に少し笑みを零す。

「38度、ちょっと下がったね。」

よしよし、と頭を撫でられて、おやすみ、と声をかけられた。
折角実験が無くなったのに、ただ寝ているだけは寂しい、と首を左右に振る。
目を丸くして、それから大丈夫だよ、と笑った。

「私はいなくならないよ、此処にいる。」

違う、ともう一度首を振ろうとしたが、氷雨の言葉が、ずっと一緒にいてくれるという意味に聞こえて、思わず口角が上がる。
彼女は嬉しそうに頷いて、もう一度頭を撫でてくれた。

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