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風邪と思い出


風邪と思い出

「はっくしゅん!」
「…大丈夫か?」
「ヘーきだって!…そういや、アンジールとセフィロスって風邪引いたことあんの?」

大きなくしゃみをしたザックスは首を傾げて、同室にいる二人に問いかけた。
アンジールは幼い頃にある、とだけ答え、早く終わらせたらどうだ?と続ける。
アンジールの机に寄りかかるようにしているセフィロスは手に持った書類に目を通しているようで、聞いていない。
ちぇ、とつまらなそうに頬を膨らませたザックスは自分のデスクにたまっている書類を見て、大きくため息を吐いた。
その仔犬の様子を横目で見ているセフィロスの脳裏によぎったのは、氷雨のいた日々の思い出。
セフィロスは静かに、目を伏せた。


「セフィロスくん…、今日は休もう?」

心配そうに俺を見つめる彼女に、小さく頷く。
頭がガンガンと痛み、体が重くて、言うことを聞かない。
氷雨はにこり、と優しく笑って、俺の髪を撫でた。

「じゃあ、パジャマに着替えてもらってもいい?その間に準備してきちゃうから。」
「準備?」
「うん、準備。」

優しげな笑顔に言われ、のろのろと着替え始める。
扉の向こうでは、氷雨がぱたぱたと駆け回っているのが聞こえた。
だが、そう思ってすぐに、彼女に抱きつきたくなる。
そんな風に思うのは初めてで、とりあえず、氷雨に言われたように着替える。
それから、訳のわからない自分を抑えるため、布団に潜り込んだ。
少し前までここにいたはずなのに、既に冷えきってしまったのか、シーツの冷たさに身震いする。
ぎゅう、と丸まるように体を抱きしめていると、色々なものを持った氷雨が扉を開けて入ってきた。
その両手には、今まで見たことない位たくさんのものを一気に持っていて、一瞬具合が悪いことも忘れ、起き上がる。

「大丈夫、セフィロスくんは寝ててね。」

もう一度、優しく微笑んだ彼女は、熱のときはこれ、といいながら、湿布のようなシートを取り出した。
それをぺとり、と俺の額に貼って、体温計を手渡される。
枕は退かされ、そこには、氷雨曰く氷枕、というものが置かれた。
頭を置くと、氷が入っているのがわかる、が、ひんやりしていて気持ちがいい。
体温計が控えめに鳴って、彼女がそれを確認する。

「うーん、39度かぁ高いね…。」

困ったように眉を下げながら、俺の首にタオルを巻いた。
それから、ベッドの端に腰掛けて、俺の頬に触れる。

「欲しいものとかあったら、すぐ言ってね。」

声を出すのが辛くて、小さく頷いた。
いいこ、とでも言いたげな彼女の笑顔と、ゆっくりとした手の動きに、瞼が下がって行くのを感じる。
氷雨の手が離れると、そこの部分が冷えて、寒い。
そう思って、俺は、彼女の手を上から抑えて、ぎゅう、と握った。
彼女は驚いた顔をしてから、嬉しそうに笑って、手の向きを変えて、俺と手をつないだ。
その体温に安心して、睡魔に身を任せた。

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