ひとり | ナノ



17


二人で出会って一年目を祝った日。
俺は、今まで言ったことのないような我儘を言った。
だけど、彼女は笑顔で、俺の額に唇を落として、頷く。
いいよ、きょうは、いっしょにねよう?
楽しそうに嬉しそうに、氷雨は笑った。
彼女に促されて、シャワーを浴びにいった。
部屋に戻ると、ソファーに座ったままの彼女がおいで、と手招きする。
近づくと、氷雨は小さく笑って、俺の髪が濡れているから、とタオルを持った。
柔らかな指が、タオル越しに動く。
気恥ずかしくて、俯くようにしていると、彼女は小さく笑った。
セフィロスは、かみをのばしてもにあいそうだね
想像したのか、面白そうに言う彼女に不満に思って、睨むように見る。
その行動が、更に氷雨を楽しませたのか、彼女はご機嫌に笑んで、俺の頬に口付けた。
それから、待っててね、とシャワー室に向かった。
何か、渡せるものはないだろうか。
部屋を見渡すが、寝食のためだけの空間だった此処には何もない。
外に出たこともない俺には、花1つ摘むこともできないのだ。
それでも、何かないだろうか、氷雨に、俺を覚えていてもらえるようなもの。
部屋中を探しまわるが、何も見つからない。
思わず、顔をしかめたときに、彼女がシャワーから出てくる音がした。
セフィロス?
俺を呼ぶ声と、一瞬目に入ったそれが今贈れる最上のものだと感じ、手にとる。
彼女の元に向かって、その瞼に唇を落とした。
擽ったそうに身をよじった氷雨と俺の寝室に向かう。
何故か、キングサイズのベッドと服が入っていないクローゼット、それと、本棚。
くっつく必要はない位広いベッドだったが、ぎゅう、と彼女を抱きしめる。
よしよし、と撫でてくれる彼女の手に、持っていた髪ゴムを通した。
驚いたような顔をして、氷雨は嬉しそうに笑う。
それから、先に眠ってしまった彼女は、少し悲しそうに見えて。
思いっきり下唇を咬んで、涙をこらえて、ふわりと、唇に触れた。

どうか、どうか、おれを、わすれないで


別れの日、彼女は同じように笑っていた。
(出て行く彼女の髪は、シンプルなゴムで留められている)
(その笑顔は優しくて、穏やかで、)

「セフィロス、元気でね。」


[前へ]/[次へ]

[ back to menu ][ back to main ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -