ひとり | ナノ



16


氷雨は、ずっと側にいてくれた。
でも、あの日から、悲しそうな、淋しそうな笑顔も増えた。
俺に教えてくれることはなくて、どうかしたのか聞いても、首を振るだけ。
そして、その度に、彼女は決まって同じ行動をする。
だいすきだよ、セフィロス
ぎゅう、と俺を抱きしめて、囁いて、それから、髪を撫でる。
まるで、俺という存在が此処にいるというのを確かめているようだった。
もしくは、彼女自身に俺を覚えさせているような印象で。
彼女はふと思い出したかのように告げた。
きょうは、わたしたちがはじめてあってから、いちねんめ、
嬉しそうに笑った氷雨は、淋しそうに眉を寄せる。
あの、ね
言い難そうに彼女は口を開いた。
もうすぐでわたしは、やめさせられるの
思わず、耳を疑った。
それから、弾かれたように彼女を見た。
泣きそうに笑っている氷雨は、とても辛そうで、切なそうだった。
なんで、
掠れたようにしかならなかったその声は、彼女の耳に届いた。
だからこそ、答えもくれた。
俺を庇って怪我したとき、彼女は治療を受けた。
そして、そのとき、彼女の特異が見つかったらしい。
研究者にとっては最高の研究材料だ。
俺の顔が険しくなっていく様を見て、彼女は吹き出すように笑った。
くすくす、と笑いながら、一番悲しいのはセフィロスと離れなくちゃいけないこと、と告げる。
その言葉にこくり、と頷いて、それから、俺も笑った。
きっと、彼女は俺が悲しむのを見たくはないと思っているだろうから。
ねえ、パーティーしようか、
二人っきりだけど、と悪戯っぽく笑った氷雨は、いつものように強く見えた。
料理を作るのも、一緒にソファーに座るのも、もうすぐなくなってしまうのだ。

彼女のいない生活は、もう思い出せなくなっていた。


二人で、ささやかなお祝い。
(それでも、二人笑っていた)
(きっと、彼女も、俺も、笑顔を覚えていて欲しかったから)

「氷雨、ありがとう」


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