ひとり | ナノ



18


氷雨が、連れて行かれた。
俺は、多分、笑顔で見送れたと思う。
そう信じている。
たとえ、彼女が出て行った瞬間に、どうしようもない気持ちの流れに飲み込まれても。
もっと、俺が大きかったなら。
もっと、俺が強かったなら。
もっと、俺が、偉かったなら。
何処にもやれない怒りと、彼女がいないという寂しさと、悲しみと。
大きすぎる程の喪失感に、その場に座り込んだとしても。
氷雨の前では、笑顔でいられただろうか。
一番、覚えていて欲しい俺を、見てもらえただろうか。
どれほど声を上げても、彼女が帰ってくることはない。

その日、俺は初めて、泣きつかれて眠った。
朝目が覚めて、もう一度喪失感に襲われる。
この部屋は、これほどまでに広かっただろうか。
思わず首を傾げながら、彼女の部屋に向かう。
扉を開けた瞬間に薫ったのは、間違いなく氷雨の香りで、視界が歪んだ。
歯を食いしばって、一歩、足を踏み入れた。
扉を閉めて、彼女のベッドに座る。
部屋を見渡すと、机の上に何か置いてあることに気がついた。
近寄ってみて見ると、セフィロスへ、と書かれたカード。
それから、黒い革の手袋。
手にはめてみると、大きくて、まだ使えそうもない。
思わず首を傾げて、カードを裏返してみる。
これがつけられるころに、
ただ、それだけだった。
別れの言葉も、再会の約束でもない。
ただ、俺が成長することを見越しているだけ。
それなのに、それが、異常な程に嬉しかった。
笑みが溢れる、そして、気がついた。
氷雨を、俺が見つければいいのだ。
この手袋が、ぴったりになる頃には、俺はきっと強くなっている。
氷雨を見つけて、守って、一緒にいる。
それから、今度はずっと一緒にいて欲しいと、目を見て言おう。

彼女は、どんなわがままだって、笑って聞いてくれるから。


俺はまた、一人になった。
(それでも、彼女と会う前とは異なる)
(いつでも、貴女を想う)

「セフィロス、任務だ。」


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