ひとり | ナノ



15


充実した日々は瞬く間に過ぎていくものだ。
氷雨と一緒にいるだけで、時間は昔の数倍速くて。
たくさん話したい、ずっと、隣にいて欲しい。
幼い感情ではあったが、それは間違いなく恋慕だった。
でも、勿論、俺はそんなこと気がつけなくて、ただただ、彼女が好きだった。
好きだ、と伝えれば、彼女も笑って好きだと言ってくれた。
名前を呼べば、いつだって、微笑んでくれる。
俺が何かを言う前に、此方を向いて、優しく目を細める。
そんな彼女に甘えることができて、俺は幸せだった。
セフィロスくん、どうしたの?
彼女は楽しそうに声をかけてくる。
きっと、俺が笑っているからだ、なんて自信過剰なことを思うが、でも、それが事実だ。
隣に座って、そっと銀色を撫でてくれる氷雨は、ひどく穏やかだ。
俺だって、今までない位に、こころ安らぐ時間を過ごせている。
氷雨がいれば、俺は幸せなんだと、そのとき心から思った。
だが、ドアをノックする音が聞こえて、彼女がソファーから立ち上がる。
扉の辺りで話す声が聞こえて、静かに耳を澄ませた。
どうやらやってきたのは、宝条のようで、何かを言い合っている。
わたしは、まだ、セフィロスくんと
彼女の泣きそうな声が響いた。
驚いて、そちらに足を向ける。
彼女越しに宝条と目が合い、苦々しいといった顔をされる。
だが、すぐに、ヤツは表情を緩め、口角をつり上げた。
…嫌な予感がした。
なんだかわからないが、どうしようもない程に悪寒が走った。
思わず、氷雨、と名前を呼びながら彼女の手を引く。
それから、抱きつくようにして、抱きしめた。
宝条が、今のうちだけだ、と笑い、去っていく。
悔しそうな顔をした彼女が、未だに、印象に残っている。
思わず、大丈夫だと、俺が守る、と何の根拠もないことを告げた。
本当に戯言の域なのに、氷雨が嬉しそうに笑った。
その笑顔は今まで見たどの笑顔よりも魅力的で、それから、愛おしかった。

だから、俺は思わず、告げていた。


どうか名前で呼んで。
(驚いた顔をした彼女は小さく笑って)
(いつもより数段優しい声で紡いでくれた)

「セフィロス、ありがとう」


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